また、成長していく過程において、子どもが熱を出したりたんこぶをつくってしまうこともある。そのときに親がそばにいてタオルで冷やしながら気遣ってくれる。これによって子どもたちは安心感・信頼感を覚える。そして、心がつながるということを体感する。ちなみに風の谷幼稚園では、子どもたちがこのような経験ができるように熱さまし用のシートなどは、なるべく使用しないように親に伝えている。
「親にもよりますが、シートなどで処置をすることで大人が安心し、子どもを『放置』してしまうことが一番の問題です。物理的な手当てだけで済ませるならば、心を通じ合わせる機会を大人が奪っているようなものです」(天野園長)
次に大切になってくるのが、子どもと先生との関係だ。幼稚園に入ると、まずは先生と関係を結ぶことになる。その際に、
■先生は自分のことを分かってくれる
■困った時は助けてくれる
■楽しいときは一緒に楽しんでくれる
といった「心が通い合う」経験を積み重ね、それを仲間との関係に広げていく。
「この時期は言葉で自分の気持ちを自由に表現しきれませんので、先生が子どもの気持ちを汲み取って、それを言葉にして『わかりあえる』関係づくりをしていくことが大切です」(天野園長)
幼児期の親や先生そして仲間と「心を通じ合わせた経験」が、「人と交流できる力」の基盤をつくるのである。
優しさを持つことは 人として当たり前
そして、「人と交流する力」を育てるために欠かせないのは「優しさ」という感覚・感性・価値観を教え育てていくことだという。では、その「優しさ」とは具体的に何なのか?
子を持つ親のほとんどが、我が子への願いとして「優しい子に育って欲しい」という想いを持っている。だが「優しさってどんなこと?」と改めて尋ねられると、なかなかうまく説明できないのではないだろうか。しかし、教師という仕事は「説明できない」では済まされない。なぜなら「優しさを育てる」という抽象的で曖昧なお題目を掲げただけでは、具体的な指導方法が見えてこないからだ。そこで、風の谷幼稚園では「優しさ」を以下のように定義することにした。
“人の心を感知することができ、人の心を理解することができ、そして、それに対応して行動ができること”
この定義に沿う力を身につけられるよう、さまざまなカリキュラムが設計され、一人ひとり、そして場面に応じたきめ細かい指導が行われている。
「『優しさを持つということは、人として当たり前のこと』と思うだけに、幼児期にしっかり育てておきたいと考えています。相手を気遣うことができる力、自分の行動と相手の行動を結び付けて考えられる力。そして、相手の喜びが自分の喜びに感じられるような心を持った子どもに育てたいと思っています」(天野園長)