自分と相手の行動を 結び付けて考える
では、本題である「人と交流できる力」が具体的にどのような活動・指導によって育てられるのか?今回は代表的な実践内容を2つ紹介しておこう。
まず、ひとつ目は毎年行われる合宿活動における入浴指導だ。ここでは、
■湯船に入る前には、まず汚れやすいところを洗い流してから入る
■湯船を汚さないよう、手拭いは湯船に入れない
■上がり湯をかけるときは、人にかからないようにしゃがんでかける
■風呂から上がるときは、まず手拭いで体の水気をとり、それからバスマット、バスタオルを使う
・・・
などが指導される。
「昔は公衆浴場に行ったり、親と一緒にお風呂に入る中で、子どもは大人たちの行動を見ながらモラルやマナーを自然と学んでいました。そして、自分だけ気持ち良ければいいのではなく『次に使う人』に心を配りながら入浴する仕方を身につけていました。これによって、自分の行動と相手の行動を結び付けて考える力が育まれていたのですが、今は生活様式が変化しそんな機会も少なくなっています。このため、あえて『次に使う人』を意識して行動する教育機会をつくり、自分の行動と相手の行動の関わりを教える必要があります」(天野園長)
つまり、仲間と一緒に同じお風呂に入るという一連の行為によって、子どもたちは「次に使う人」の心情を察することを覚え「身勝手に振舞うと人に迷惑をかける」ということを体で学ぶ。そして入浴に限らずあらゆる場面において「人と気持ちよく交流するためには自分はどう振舞うべきか」を考えるようになる。
子どもが洋服を畳んで仕舞い易いようファスナーがつけられている
また、もうひとつの活動は、衣服を通じて親とのつながりを体感することだ。風の谷幼稚園にはオリジナルの洗濯袋がある。これは子どもが衣服を畳んで収納しやすいようファスナー部分に工夫が凝らされている(写真)。第4回「衣服の自立」で紹介したように、風の谷幼稚園の子どもは教室に着替えを1セット置いている。そして着替えた時は汚れた衣服をこの洗濯袋に畳んで仕舞い、家に持ち帰る。このときに先生は「こうしておくとお母さんがお洗濯をするときに洗いやすいんだよ」と声をかける。そして予め親には「あら、こうしておいてくれると助かるわ」と声をかけるよう指導しているという。
すると、子どもたちは親が喜んでくれることでうれしくなる。そして、子どもたちは「自分が汚した服を親がきれいに洗濯してくれているんだ」ということを洗濯のたびに意識する。このような機会を積み重ね、人との交流が楽しくなっていく。
ここで「洗濯機に入れるから畳む必要はないじゃないか」と、冷静な見方をする人がいるかもしれない。しかし、子どもたちに教えたいのは現実的な合理主義ではない。自分の行動が相手の行動とつながっているということを実感させることなのである。
モノが豊富になったことで、得たもの失ったものを考えた時、失ったもののトップにあげられるのは「自分の行動と相手の行動を結びつけて考えられる力」ではないか?天野園長はこんな疑問を投げかける。そして、その失われつつある大切な力を育てることに日々情熱を傾けている。
次回は「幼児期に大切な3つの力」の最後の項目である「問題は必ず解決できるという思考力」を紹介する。
※次回の更新は、11月12日(木)を予定しております。
風の谷幼稚園
園長・天野優子氏が、理想の幼児教育を実現するためにゼロから建設に乗り出す。様々な困難を乗り越え、1998年に神奈川県川崎市麻生区に開園。「人間が人間らしく、誇りを持って生きていく」ための教育を実践している。
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