ところが、入学してすぐに意気込んで先生の研究室に行ったら、なんとその人は別の原田先生だった。原田馨先生は生物学類ではなく自然学類にいたんだ。痛恨の勘違い。18歳の心は折れかけたね。原田馨先生を訪ねて行ったら、いまさらしょうがないと言われて。転部制度もなかったし、学類が違うから単位にならなかったけど、原田先生の授業には4年間出続けた。
●そんな長沼青年が、深海をはじめとする辺境の生命に目を向けるようになる、というのは、どんな経緯だったんですか?
——そもそもは、1979年にあった2つの大発見が関係しています。一つは、海底の300度をこす熱水噴出孔付近でチューブワームの群生地が見つかったこと。そして同じ頃、木星のガリレオ衛星の一つであるイオで火山が発見されたこと。二つを結びつけると、「木星の火山には生命があるんちゃうか?」ということになるわけ。二つの大発見は、かのアーサー・C・クラークに『2010年宇宙の旅』を書かせたけど、長沼毅の人生をも動かしてしまったのです。
チューブワームは1977年に初めて群生地が発見された深海生物。太陽光の届かない深海に生息し、口も消化管ももたず、体内に持つ共生バクテリアの栄養供給によって育つ。人智を超えたチューブワームの存在は、生命の多様性を物語る。
ガリレオ探査機が撮影した木星の衛星・イオの表面。イオでは火山活動が確認されている。活火山があるのだから、生命体が存在する可能性も高い。
学部から大学院に進むときに、担当教官を決めないといけないんだけど、「生命の起源」なんて面倒そうなことをやりたがる学生は、誰も担当したがらなかったのよ。そこに、やってもいいよという先生が一人現れた。微生物生理生態学の関文威先生。日本最古の武術・鹿島神流の師範代でもあり、手裏剣と鎖がまを手元に置いている変わった人でした。