●賢さが先に立つ子だったんですね。でも、暗黒時代だったようには聞こえませんが。
——だって、先生に嫌われたから。小学生が先生に嫌われたらだめでしょ。俺、答案には裏の裏をかく答、先生も知ら ないようなことを書いて、それに×をつけられたら、「これは辞書に載っていることですよ」とここぞとばかりに指摘してやる子だったから。でも、成績はどの教科もよかったのに、ただ一個だけ、理科はあかんかった。
●あれれ。先生は生物学者なのに?
——たとえば、上段に花の絵があって、下に根の絵があって、それらを線で結べ、みたいな暗記問題が、嫌いでね。もちろん、小学生の 頃も宇宙は常に頭にあったよ。太陽系での地球の位置づけとか、光のスピードがどのくらいだとか、そういうことは自分で勉強していた。でもそんなの問題に出なかったからね。
この頃のことで親に一つ感謝しているのは、小1のときに百科事典の全集を買ってくれたこと。すごくハッピーで、ずっとそれを読んでいた。中1に なってその百科事典をみたら、特定の巻だけ真っ黒だったのを覚えています。地球、宇宙、政治、世界、あと歴史。意外だけど、生物の巻は真っ白だったんだよね。
●中学、高校でも同じような感じでしたか?
——中学ではまだ先生に反抗していたけど、高校では逆らうのをやめました。高校の先生たちは頭よかったから尊敬できたの。なにかというと、テストの答案に 100点以上をつけてくれたんだ。たとえば数学では、答は当然正しいとし て、解法が美しかったらそこを評価して100点以上をつけてくれた。今から思えば先生のほうもうまかったよね。俺のプライドを損ねることなく、でも俺を手なづけた、というか。でも、相変わらず生物はダメでした。
●大学進学では、文系と理系のどっちを選ぶか、という悩みはありませんでしたか?
——ほんとは哲学をやりたかったの。哲学とサイエンス以外に人間のアリストテレス的な高みってないと思うから。経済とか工学とかって、少し次元が違うでしょ。そう思って早稲田のⅠ文を受けようと思っていたんだけど、書類提出の〆切に遅れちゃって。生物と哲学で、最後まで迷っていたんだけどね。
それまで生物は苦手だったんだけど、高校の生物の教科書に「生命の起源」について論じたところがあったのを読みまして。詳しい内容は忘れたけど、膜ができたのが細胞の大元ではないか、というようなことが書いてあった。生命っていうのは細胞とほぼ同義なんだ、ってことだね。
●起源問題について幼少時から考えていた少年からすると、それはやはり見逃せないテーマだった、と。
——その「生命の起源」を研究していたのが筑波大学の原田馨先生だと知って、教えを請おうと筑波大の生物学類を受けたわけ。普通は理学部の下に生物学科があるけど、筑波大では生物学が独立していたというのも気に入ったね。