オトナの教養 週末の一冊

2016年2月14日

»著者プロフィール
著者
閉じる

中村宏之 (なかむら・ひろゆき)

ジャーナリスト

1967年生まれ。91年、慶應義塾大学経済学部卒、読売新聞東京本社入社。ロンドン特派員、米ハーバード大学国際問題研究所研究員、経済部デスク、調査研究本部主任研究員などを経て2017年4月より読売新聞東京本社メディア局編集部次長。『御社の寿命』、『世界を切り拓くビジネス・ローヤー』、(いずれも中央公論新社)など


カズオ・イシグロのデビューが衝撃的だったのは良く覚えている。1989年に「日の名残り」(リメインズ・オブ・ザ・デイ)が権威ある「ブッカー賞」を受賞した後にイシグロ氏が来日したときの記憶は今も鮮明だ。当時、日本でも大きな話題になった。日本生まれで英国で育った人が、格調高い英語でここまでイギリス風の作品が描けるということに衝撃を受けた。

 独特の世界観があるカズオ・イシグロの作品には読者に深く考えさせる力が備わっている。数年に一度のペースで作品を発表するという寡作の作家ではあるが、一つ一つの作品が精緻に練られているのが特徴だと思う。

 イシグロ氏自身、NHK の番組で話しているが、「私を離さないで」は二回書き損じているという。舞台設定がなかなかうまくいかなかったというのがその理由だという。ロケーションハンティング=舞台設定の事前調査、に時間をかけ過ぎると自己分析していたのも印象的だ。だが、この作品では結果として完璧ともいえる舞台設定がなされており、読み手はそれにぐいぐいと引き寄せられてしまう。

 2015年には10年ぶりに「忘れられた巨人」という長編小説を発表した。「わたしを離さないで」のドラマ化もあいまって、久しぶりに日本でカズオ・イシグロへの注目度が高まるかもしれない。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。
 

関連記事

新着記事

»もっと見る