2024年11月23日(土)

中島厚志が読み解く「激動の経済」

2009年11月13日

 新政権は、来年度予算に子ども手当、公立高校の授業料実質無償化など多くの新政策を盛り込む方針だ。民主党のマニフェストが全て実行されると、10年度での新政策の総額は7.1兆円に上る。そして、マニフェストでは、その財源は予算のムダづかい排除やいわゆる埋蔵金の活用などで捻出するとしている。

 しかし、来年度予算の概算要求が今年度当初予算88.5兆円を7兆円近くも上回ったことが示しているように、巨額な新政策全てを予算の組み替えで行うことは容易ではない。藤井財務大臣は、来年度予算を92兆円以下に収めたいとしているが、それでも今年度当初予算以上の規模となる。この形では、2010年度にかけても経済対策の下支えが続くことになるものの、ただでさえ懸念される財政赤字が一層拡大してしまう。

 しかも、景気刺激的な10年度予算を組んでも、年末から来年前半にかけて景気が踊り場を迎えることは避けられないように見える。足元では、補正予算を3兆円ほど減額することとなっており、これから公共事業の伸びも鈍化する。政府が示しているように、補正予算の減額措置で成長率は年率0.2%ほど低下する。また、消費を支えているエコポイントや自動車買い替え支援策の一部は来年3月までとなっている一方、初年度2.3兆円に上る子ども手当の実施は来年6月以降となっており、経済対策に切れ目が出来てしまう。

避けたい80年代の再来

 世界経済と日本経済の状況に鑑みると、11月6日にイギリスで行われたG20財務相会議の共同声明内容は妥当とも言える。そこでは、「経済の回復が確実になるまで景気刺激策を続ける」としつつ、「持続可能で均衡がとれた成長を実現する」ため、G20各国が工程表を示して、政策を相互評価していくとしている。

 確かに、世界経済の現状は依然回復が確実とはなっていない。また、米国がいままで家計や対外的な不均衡の拡大で世界経済を成長させてきたパターンは見直されざるを得ない。もちろん、各国が財政赤字を拡大させ続けることには限度があり、持続性もない。

 しかし、G20財務相会議で「世界経済の不均衡是正の枠組みづくり」が議題となったことは気になる。80年代の繰り返しのようになるのではないか、という懸念である。80年代には、米国の膨れ上がった対外不均衡を、ドル以外の主要国通貨を大きく切り上げるプラザ合意を通じて是正しようとした。しかし、日欧では、内需拡大と輸入増による不均衡是正に加えて、通貨切り上げによる景気悪化とデフレ圧力の緩和も目的とした景気刺激策が、大きな不動産バブルにつながってしまったのである。

 足元の状況は、経常黒字国が景気刺激的な政策を強力に推進しており、当時に類似しているところがある。現に、中国などは、人民元の切り上げこそないものの、緩和的な金融政策と強力な景気刺激策を続けている。

 もちろん、大きな経常黒字国である中国、日本やドイツなどの景気刺激策は、対外不均衡是正の面があるとしても、一義的には低迷する国内景気を下支えするものに他ならない。しかも、いまのところ第二のプラザ合意を目指す動きもなく、高成長持続が最優先の中国が景気を下押しする人民元大幅切り上げを簡単に呑むとも思えない。

 しかし、中国の景気刺激策が金融バブル的な動きにつながりかねない点は80年代と類似している。すなわち、国内景気の下支え策が、国際協調政策のお墨付きも得て過度となれば、資産バブルを加速させ、結果として80年代のようなバブル経済を再来させかねない。


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