世界の母子、日本の母子のために私たちができること
母子手帳の恩恵を長く受けてきた日本人の私たちにも協力できることがある。それは、途上国や難民の母子に母子手帳を届けることにつながる支援だ。私たちは市町村から無償で母子手帳を受け取ることができる。しかし、多くの途上国では、母子手帳の良さを認識していても、印刷費がまかなえないことから導入ができないことがよくある。国によっても価格は異なるが、一冊100円にも満たない印刷費であっても、途上国の保健予算では、持続的に負担することが困難である。この印刷費を私たち一人一人が、母子手帳を受け取った時、募金できる仕組みを導入できないだろうか。
たとえば、母子手帳が途上国支援に役立てられていることを日本の母子手帳に記載し、募金ができるサイトを掲載するのである。サイトでは、途上国の子育てが困難なことや、母子手帳が途上国の母子を救うツールとして役にたっていることを伝える。同じサイトには、日本の両親が小児科医や助産師、保健師と個別に相談できる窓口なども掲載して、日本の母子保健も手厚く支援する。
子どもの健康を願う気持ち、妊娠出産に苦労するのは、世界共通であることを知ると同時に、日本で様々な有形、無形の支援を受けて出産する喜び、誇りを感じ、子育てに自信を持ってもらいたい。日本の両親は、小さな募金を通じ途上国の親子とつながることで、彼らと一緒に子育てをする気持ちが生まれ、子育ての孤独から解放されるかもしれない。一方、途上国や難民の母子が使う母子手帳では、印刷費の一部が日本の母子からの贈り物であることを伝えられると理想的だ。
未来の社会を担うすべての子どもたちに適切な保健医療を受ける権利を保障しよう。社会から孤立するリスクの高い脆弱層、国境を越えて移動する難民にも、妊娠前後の健診、子どもの予防接種、健診、栄養対策や治療など、継続的に受診できるよう、国の枠組みを超えて社会全体で母子保健を保障しよう。母子手帳を文字通り「生命のパスポート」として国際社会が認知し、母子手帳を持っていれば、国を超えて移動しても適切な医療が受けられるような仕組みを構築しよう。そしてそこに、日本の私たちも貢献しよう。母子の健康を守ることは、私たちの未来を形成する。すべての母子に母子手帳と母子継続ケアを提供し、格差のない公正な世界を形成しよう。
(※本稿の内容は筆者の個人的見解であり、国際協力機構の公式見解ではありません)
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