2024年11月22日(金)

石油を読む

2016年2月25日

 実際、日本国内のガソリン需要予測はこのように作る。まず国内の自動車保有台数を想定し、それから全部の自動車が1年間に走る「総走行距離」を想定する(この想定は経済活動と相関させている)。「総走行距離」に自動車の「平均燃費」を掛け算すると、来年の国内ガソリン消費量が得られるだろう。すなわち、ガソリン店頭価格が高いか安いかのシナリオは、需要予測手法に取り込まない。将来価格がわからないから取り込まないのではなく、高かろうと安かろうとクルマたちは走るためにガソリンを欲するのだ。

大転換点

 最終需要家のエネルギー製品の選択は、保有する機器で決まる、ということ、了解されましたでしょうか。ガソリン車のドライバーはクルマで移動するために、燃料が必要だ。だからガソリンを買う。

 これはつまり、このドライバーが、将来のある日、電気自動車に買い換えると、もうガソリンには戻ってこない。もしや100円ガソリンが、ガソリンに賦課しているリッター60円の税負担が、突然、ゼロになったもので、スタンドで、40円! で売り出されても(これは、絵空事ではない。アメリカのテキサスのスタンドでは、現在1ガロン1ドル、リッター32円! で売っている)、電気自動車のドライバーは無関心だろう。世の中の自動車の動力システムの大勢が変わってしまえば、ガソリンは不要になる。事情は軽油トラックでも同じ。電気で走るトラックが一般化したら、軽油は不要になる。だだし、航空機のジェット燃料を電気で代替するには、重い巨大なバッテリーを積まなければならないから、難しいだろう。

 なお暖房用灯油は、家庭の居間で、電気、都市ガスとの相乗りが可能である。機器や設備費が安いため、そして燃料費が比較しやすいためである。筆者はこの冬、灯油が安いものでエアコン暖房を控える。

 本題に戻ると、最終需要家はエネルギー製品の間で、随時の選択ができない故、日々の現物石油価格の相場形成には出番がないことが、お分かりいただけたと思う。

 だから、供給者の間の市場シェア獲得争いで、現物の石油相場は決まる。そして国際原油市場で、産油国と価格交渉をする買い手とは、石油製品を生産・供給している世界の精製企業たち。日々の現物石油価格(原油と石油製品の両方です)は、原油供給プレイヤーたちと、原油を購入して石油製品を生産するプレイヤーたちとの間の、市場を介した綱引きで決まるのだ。

 産油国が生産しすぎると原油は余る。国際市場には最終需要家保護を旨とする独禁法なんか簡単に持ち込めるはずもないから、サウジもイランも、ベネズエラやナイジェリアも、シェール生産者たちも、ロシアやブラジルなんかも「一堂に会して」「話し合って」、需給を調整すればよろしい。それがうまくいかないので、供給過剰に陥り、原油価格が上がらない。

 以上、たいへんよくできた解説に聞こえるでしょう……。

 で、改めて、なぜ今、原油相場が30ドルなのか? 産油国・精製企業間の価格交渉に、世界の現物石油需給の動向が反映されて、今の30ドル相場があるのだろうか。

 実は、そうではない。筆者は、もともとこの話をしたいのでした。筆者の考え方は、この連載の第1回「石油価格の決まり方:4種類の価格形成情報」に書きました。

  
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