2024年11月22日(金)

足立倫行のプレミアムエッセイ

2016年2月28日

 元気な時ならば『少年探偵団』や、始まったばかりの『赤胴鈴之助』を聞き逃すことはないのだが、病床にあってはとぎれとぎれに主題歌を耳にするのみ。それでも「相撲だけは」と頑張って起きたのは、贔屓の千代の山が快進撃を続けていたからだ。

 第41代横綱の千代の山は戦中から活躍していたベテラン力士で、この年31歳。

 筋肉質な体で強烈な突っ張り。しかも顔が面長で顎がごつい。それは少年の私が考える「理想の男」のタイプだった(映画俳優でいえば大犮柳太朗タイプ)。

下り坂にして達成した初の全優勝

 私は雑誌『少年画報』のグラビアや映画館のニュース映画を見て千代の山のファンになったのだが、その頃すでに千代の山は力士として下り坂だった。直前の1年間(4場所)の成績は、4勝、8勝、11勝、全休。

 横綱では栃錦が強く、新進大関の若ノ花(後の横綱若乃花)が追い上げており、大相撲は栃若時代を迎える直前だったのだ。

 しかし、この1月場所の千代の山は違った。初日から白星を積み重ね、何と難関の若ノ花や、横綱吉葉山も退け、(おそらく私の必死の応援もほんの少し影響したのか?)6回目の、しかも本人初の全勝優勝を成し遂げてしまったのである。

 私の家族や友人、誰一人思ってもいなかった大逆転の「復活」優勝。私は狂喜した。

 そして、私の願いが最高の形で実現すると同時に熱も下がり、私は快方へと向かった。

 ことほどさように、スポーツ選手の活躍、というより成績の浮沈は、ファンの心理や体調に連動してしまうことがある。

 見るスポーツの持つ最大の魅力(魔力?)と言えようか。

 その意味で今回、万年大関琴奨菊の長い冬眠から目覚めたような突然の大暴れは(競技が大相撲ということもあって)、私の中の懐かしい感覚をゾワゾワと刺激したのだが……。

 数十年前の千代の山の大逆転優勝は確かに私にも高熱からの解放、病気回復をもたらしてくれた。だが、今回は?

 布団の中であれこれと考えてみたけれど、当方の側の連動する「夢」が何もない。単に、睡眠が浅くなっただけのような……。

  
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