2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年3月2日

 シェール石油Ⅱは前より良くなる。技術は迅速に改善している。リグ1機当たりの生産量はここ5年で4倍になった。生産性は昨年40%上がった。リグの値段は安くなり、ロボット技術などで効率はさらに改善している。それに過去10年、一兆ドルがパイプ、貯蔵庫、製油所などのインフラと知的財産権に使われた。シェール石油Ⅱは出てくる。物理的、知的資産は破産ではなくならない。石油会社には金があり、合併・買収(MA)のブームが来るだろう。

 2016年、石油の低価格は続くだろう。イラン石油が100万バレル出てくれば、競争は厳しくなる。シェールⅡのための技術開発刺激策をとるべきである。議会はシェール技術開発に資金を回すべきである。税金ではなく、100億ドル以上の石油備蓄を取り崩せばよい。備蓄はそんなに必要ではない。米国のエネルギー需要の80%は炭化水素なのに、エネルギー研究予算で炭化水素は8%に過ぎない。市場、同盟国、友好的とは言えない競争者に、米の技術中心のシェール「工場」は生き残り、改善し続けるとのメッセージを送る時期である。

出典:Mark P. Mills,‘After the Carnage, Shale Will Rise Again’(Wall Street Journal, January 18, 2016)
http://www.wsj.com/articles/after-the-carnage-shale-will-rise-again-1453162664

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シェール産業の再復活はあり得るのか

 サウジなどは、米国でのシェールガスと石油産業に打撃を与えるべく石油価格を低めに誘導し、米国のシェール産業は低価格によって大きな打撃を受けました。しかし、この論説が指摘するように、シェール産業は、小規模で機敏に動きうること、技術が早い速度で改善していることなどにより、再復活すると思われます。

 今の技術で、バレル40ドルでシェールオイルは採算がとれるということであれば、石油価格はこの付近になるのではないでしょうか。そのことが持つ世界政治と世界経済に対するインプリケーションは大きいものがあります。

 ロシアは石油価格が今後上昇することを切に望んでいるでしょうが、イラン石油が世界の市場に出てくること、消費国の側で備蓄の必要が減ること、OPECがサウジとイランの関係悪化で減産に同意しえないとみられること、中国の需要の減退など、石油価格が上がる要因はありません。ロシアは今、バレル50ドルの想定で予算を組んでいますが、価格が下振れした場合として想定しているのがバレル40ドルです。しかし、今は30ドルの水準にあります。

 サウジやUAEは海外での投資を引き上げることになりかねず、株やその他に大きな影響が出てくる可能性があります。予算も緊縮気味になるでしょう。サウジの安定は石油収入のバラマキによっていたので、国内の不安定化もあり得ます。ベネズエラその他の苦境は、改善の見込みがないように思います。

 日本にとっては、安い石油は当然大きなメリットがあります。バレル40ドルで落ち着いてくれれば歓迎できますし、米国ほど輸入先として安定した国もないでしょう。1973年のオイルショック時には「油乞い外交」を余儀なくされましたが、そうした時代は再来しないと思われます。

  
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