2024年11月22日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2016年4月17日

入試変革の背景にある大学側の危機感

 入試を変えてゆかざるをえない背景には日本の大学の危機感がある。

 〈「知識・技能」に偏った入試問題を作成していたのでは、解なき社会、グローバルな社会で、世界の人材ネットワークと協働して問題を創造的に解決していける人材を獲得できません〉

 著者はこう主張するが、その通りだと思う。一度限りの試験で、しかも1点刻み、大学によっては小数点以下の点数を競うことと、世界に通用する優れた研究者を生み出すというのは、必ずしも結びつかないことは、冷静に考えればすぐにわかることである。

 グローバル化が進展するなかで、日本、特に理系の研究者にとって戦うべき相手は世界のライバルたちである。国内の狭い競争にとどまらず、広い世界の俊英たちと競わないといけないのである。今この瞬間にも同じ課題に多くの研究者が取り組んでいるのである。真に必要なのは、点数の競争では得られない柔軟な発想であり、様々な応用動作である。そうしたことができる人材は世界から引っ張りダコであり、そうした人材を逃さず育成するためにも、入試は変わらざるをえない。知識や情報だけでなく、思考力を問い、柔軟な発想や応用思考ができることはどんな分野でも不可欠な資質だ。

突飛な問題通し試されるもの

 本書ではケンブリッジや、オックスフォードの入試問題、口頭試問の問題などが紹介されている。

 〈火星人に人間をどう説明しますか〉

 〈カタツムリに意識はあるでしょうか〉

 日本の入試の感覚では“突飛”な問題だと考えられがちだが、きちんと説明するにはそれなりの学習と知識が必要であるし、説得力ある文章を書くには相応の訓練も必要である。英国の大学進学希望者はこうした試験を経ているのである。日本の大学入試もこうした方向に向かいつつあるといえる。

 世界の知の競争環境を踏まえて、本書では2020年の入試のためにどんなスキルが必要なのか、さらにそのトレーニングの重要性を説いている。未知の事態に遭遇した時に、比較するものをすみやかに見いだし、相違点と共通点をみつけてゆきながらその事態が何かを理解してゆく手法などが紹介されている。これはとりもなおさず、自分の力で考え、想像力を活用してゆくことの重要性を示している。

 2020年は東京オリンピック・パラリンピックが行われる年だけではない。大胆にいえば日本が大きな転換点を迎える年になるということもできる。その一つが大学入試なのだろう。我が国の競争力のフェーズを一段と上げるきっかけになるであろうリアルな未来予想図を本書は描き出している。

  
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