2024年11月22日(金)

秋山真之に学ぶ名参謀への道

2009年12月12日

 

 さらに蒸気機関を動力とする産業革命で、民族国家の経済力・軍事力が飛躍しました。たちまち、世界中で欧米列強の植民地争奪戦がはじまりました。西からは無敵艦隊で七つの海を支配するイギリス帝国が東漸します。印度ムガール帝国を征服し、中国清朝から香港を奪った。つぎなる獲物として狙われたのは日本徳川朝です。西郷隆盛や坂本龍馬たち若者は、この危機に「尊皇攘夷」を唱えて決起しました。「一身一家一郷(藩)」を越えて、薩長土肥の盟約を結び、徳川朝を武力で打倒します。「大政奉還」のあとはプロシャをお手本に「君国」をつくり「富国強兵」に取り組んだ。明治維新です。

 NHKテレビで司馬遼太郎さんの『坂の上の雲』の放映がはじまりました。好古・真之兄弟と子規が坂の上に見ていた一朶の白くかがやく雲とは、この「君国」でした。君国が滅亡してしまえば、一身も一家も一郷も保ちえない。明快な選択でした。むしろ選択の余地がなかったから、迷いもなかった。

 明治38年の日露戦争は、「君国」を守る決死の戦争でした。北からロシア帝国が南下してきます。延々長蛇のシベリア鉄道をウラジウオストク軍港まで延ばし、日本海の制海権をうかがった。日清戦争に独仏と談合して三国干渉し、旅順軍港を割譲させます。日本の臥薪嘗胆がはじまりました。日本人は満腔の愛情を「君国」に捧げ、総力をあげて勇戦奮闘し、なんとか滅亡を免れます。

 敗戦後の日本では、「わが社」が「君国」に代わります。吉田茂首相は日米安保条約を結んで再軍備を避けました。財政資金をもっぱら産業政策に投じて企業の生産力を育成します。傾斜生産方式です。この吉田ドクトリンで、まんまと日本経済を復興させました。ご本人が終戦の詔勅の日に「負けぬ気」で予言したとおりでした。

 「なに、戦争に負けても、外交で勝った例はある」

 企業も日本の復興に重要な役割を担います。政府に代わって社員の生活を保障しました。年功序列賃金、ボーナス、社宅、家族給、共済組合などなど。高度成長期のサラリーマンにも選択の余地はありませんでした。「猛烈社員」となります。行き場のなくなった「愛国心」が「愛社精神」にはけ口をみつけました。奇蹟の高度成長は「愛社精神」で成ったのです。

さて平成のいま、バブル・バーストのあとの日本人はどうか。満腔の愛情を傾けるに足る対象を見出すのに迷っているようです。敗戦後遺症はまだ残っていて、「愛国心」(Nationalizm)はあいかわらず人気がありません。

 代わりに「愛郷心」(Patriotism)が使われています。しかし、「Patri」は親を意味します。つまり「君国」から「一郷」へ下り、さらに「核家族」へ下りた。あとには、「一身」しか残っていない。

 ホリエモン君の起業には「大慈悲を起こし人の為」という精神が欠けていたようです。平成のつかの間のヒーロー、むしろピエロに終わってしまいました。いっぽうで、いきなりワールド・シリーズでMVPとなった松井選手がいます。さらには宇宙に飛んだ日本人飛行士もいます。

 それはそれで結構な話ですが、企業参謀であるあなたは、どうすればいいのか。「わが社」を国民経済のレベルから世界のなかの日本文明のレベルへ高める。

 これが昭和の企業参謀の結論ですが、ここでは予告に止め、最終回で再説しましょう。次回は、秋山軍学の「戦略と戦術」についてみます。 

◆『甦る秋山真之』(上・下巻)

 

 

 

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