これについて、先生と親との間で交わされる「れんらくちょう」には以下のような記述がある。
前回の親園会のとき、先生が円ばん作りの件でいろいろな子どもたちの様子を話してくださったので家に帰ってから翔太に円ばんの話を聞いてみました。でもはぐらかした答えばかりで……。私は「たぶん上手にできてないからかな~」と感じていました。
今までも上手にできないとすぐにあきらめて投げ出してしまうことが多々ありました。私も一応は「練習すれば段々と上手になるんだよ」とか「誰だって最初から上手にできる人はいないんだよ」とかいろいろ言って聞かせてはいたのですが、私自身ただ翔太を頑張らせようと「頑張れ!」しか言ってなかった様な気がします。
きちんと子どもと向き合っていれば“できないところ”が見えてくるんですね! それによって“できないところ”を具体的に教えればいいんですね!
一部には「頑張れという言葉は子どもを追い詰める。頑張れという言葉を言ってはいけない」という主張もあるようだが、これを単なる言葉の問題として捉えてしまうなら、むしろその方が問題だろう。もう少しで一皮むけそうな相手を見て「頑張れ」と声をかけるのはごく普通の感覚ではないだろうか。このときに大切なのは「どのように頑張ればいいのか」を合わせて伝えること。これを認識しておくことが一番大切なのである。
できないところがわかればできる
さて「紙工作」において、子どもたちが苦労するのは「まんまる」が描けた後の「まんまるに紙を切る」ということだ。年中児であれば、ハサミはそこそこに使いこなすが、どのように切ればよいのかがわからないのである。ここで再び学級通信を見てみよう。
「上手だね! 今度は切るときに気を付けてね。線の横だよ」
しかし、はさみを持った翔太くん。動きません。そして「できない」と一言。「何ができないの? 何がわからないの?」そう聞くと、どう伝えればいいのかもわからないようで首を横にかしげてしまいました。
「じゃあ、どこができないのか見ててあげるから切ってごらん」
そうして切り始めたものの線の上側を切っているため、切っているうちにどこを切ればいいのかわからなくなってしまいました。
「翔太くんは、線の横がどこかがわからないんじゃない? 線の横ってここだよ」
実際に翔太くんの目の前で切りながら教えていくと、しばらくして「あっ、わかった!」との声。それからというもの、線の横を意識して自分の力で切り終えたのでした。
「ほらね。どこができないのかわかると、できるようになるんだよ。もう1人で作って大丈夫だと思うよ」そう声をかけると2枚、3枚と作っていく翔太くん。“できないところがわかるとできる”ということ、身をもってわかったでしょうね。 鳥1組 学級通信 「おおばこ」より
1度や2度うまくいかないことがあっても、「“どう”すればうまくいくのか」という見通しをもって行動し、「こうすればうまくいく」という実感を得た子どもたちの中には、少しずつ自分への自信が芽生え始めていくのである。これが風の谷幼稚園の目指す「人間として誇りを持って生きていく」ことに繋がっていく。