きちんと片づけるってどういうこと?
「もうおしまいにするよ。はさみは8本あるかな? ごみは集めて捨ててね」
作り終えた後はみんなで片付けです。グループごとの道具はすべて8つずつ。グループの仲間と数を数えてからホワイトボードの下に戻すというふうにしています。糸が1本でもなくなると「○グループの糸がないよー」という当番の一声で一斉に机の下にもぐったり、再び他グループの道具数を数え直す子どもたち。
このように道具の扱い方はもちろんのこと、道具の管理の仕方にも意識を向ける取り組みにしたいと思っています。
また、きちんと片付けをして“おしまい”にすることで、物事には“はじめ”があって“終わり”があることが伝わるとも考えています。
行動を完結させることが大事なのです。 鳥1組 学級通信 「おおばこ」より
この「紙工作」の教育意図はまだまだ奥が深い。これには道具の管理の仕方を覚えさせるという大切な教育目標がある。だが、ここでいう管理とは、「道具が紛失していないか」「ちゃんと片付けられているか」という外形的なことを教えることに留まらない。「共有物である道具をきちんと片づけなければ仲間に迷惑がかかる」という社会性を教えることにむしろ主眼が置かれている。
密着レポート第6回で紹介したが、天野園長の危惧する「ものが豊かになったことで失われたもの」である「自分の行動を相手の行動と結び付けて考えることができる力」。これを子どもたちの中になんとか育てていきたいという思いがあるのだ。
電話をはじめ、かつては共有物であったものが個人別に所有される現代。この傾向はますます進むことが予想される。これは確かに便利な半面、自分勝手な行動を増殖させる温床にもなりうる。
そんな時代の流れにも流されず、自分の行動の影響に十分気が配れる人間を育てたい。そんな思いを込めながら、片付けの指導にも身が入る先生たちなのである。
「紙工作」に込められた教育意図は他にもあるが、このあたりにしておこう。「紙工作」ひとつをとっても、子どものために考えに考え抜かれ、さらに試行錯誤を繰り返しながら進化し続ける風の谷幼稚園の教育には、ただただ驚くばかりである。
※次回の更新は、12月24日(木)を予定しております。
風の谷幼稚園
園長・天野優子氏が、理想の幼児教育を実現するためにゼロから建設に乗り出す。様々な困難を乗り越え、1998年に神奈川県川崎市麻生区に開園。「人間が人間らしく、誇りを持って生きていく」ための教育を実践している。
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