2024年7月13日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2009年12月9日

 岡田外相がこんな実現性の低い解決策を簡単に提案することひとつとっても、民主党が選挙前にこの問題を真剣に検討したとは考えにくいのである。

厭日気分が広がるアメリカ

 思いつきの空手形を切ることは選挙につきものとはいえ、やはり安全保障や政府として連続性を問われる外交問題で乱発してはいかにも常軌を逸している。

 まず心配されるのは対米関係のダメージだ。いきなり政局のとばっちりで日米合意を反故にされかけたうえに抵抗勢力として矢面に立たされたアメリカは、日本の不安定な政治状況に警戒感を強め、不信感を抱いたに違いない。アメリカはここ数年、政権交代期の台湾で同じようなことを経験してきている。台湾の現与党の国民党が議会で多数を取った状況を利用して米国からの兵器購入の予算を人質に民進党を揺さぶり続け、アメリカはその煽りを喰ったからだが、日米同盟の将来を考えたとき、台湾政治と同じ次元の混乱に巻き込めば厭日気分が広がるのは避けられない。

 ただ今回、対米関係の棄損よりも日本の安全保障にとって深刻なのは実は沖縄問題だ。

 日米の同盟関係が重要なことは言を俟たないが、安保体制は必要条件であって十分条件とはいえないのもまた事実だ。

 厳しい財政運営を余儀なくされるアメリカの世論が今後急速に内向し、世界に軍事力を展開することに疑問を抱く可能性や、日本の危機に際し本当に時の政権がアメリカの若者を戦地に送る決断をしてくれるのかという点を考慮しなくてはならないからだ。第二次世界大戦当時、同盟国であったイギリスがいかにアメリカを戦争に引き込むかで苦労した事実を見ても一定の疑問は残すべきなのだ。

 そうした事態を含めて日本の安全保障を考えたとき、やはり日本独自で対応できる防衛態勢の整備はやはり不可欠だ。そして海の防衛の中心が北から尖閣諸島問題やガス田問題で揺れる東シナ海へと移ったいま、そのカギを握っているのは沖縄なのである。

 実は私は今年の春、この問題で沖縄を訪れている。取材の中心は、与那国島への自衛隊常駐の動きと尖閣諸島の政府買い取り問題だった。その成果は紙幅の都合でここでは詳しく紹介することはできない。今月末に上梓する『平成海防論』(新潮社)で詳しく書いたので手に取っていただきたい。

中国にとっての沖縄の戦略的価値

 いずれにせよどちらも中国からの圧力の強まりを背景にして生まれた動きである。世界第2位の経済大国となった中国の財政力は、いま確実に装備を含めた海や空の現場に反映され始めている。「中国の戦闘機の実力は現状で日本を超えつつあり、さらに世代交代が進めば空の主導権は完全に奪われる」(前出・自衛隊幹部)との警戒も働く一方、(中国空軍の動きが活発化するなど)「日本の日常からは想像もできない緊迫した事態が度々起きている」(同)という。また東シナ海では日本の海上保安庁の巡視船よりはるかに性能面で上回る中国の海洋調査船が増え、現場に焦りが広がっているという現実もある。

 中国にとって沖縄は、太平洋への出口という地政学的な意味以上に日米関係に亀裂を生むことのできるといった意味でも戦略的価値は計り知れない。もしその沖縄に対する日本政府のグリップが緩めば、そこに楔を打ち込んでくる可能性は限りなく高いのである。


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