前向きに読み解く経済の裏側

2016年6月6日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

経済評論家

1981年 東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の業務に従事。2005年 銀行を退職して久留米大学へ。現職は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は一個人として行うものであるため、肩書きは「経済評論家」とする。

既に立ち去った人の事も考えてみよう

 パチンコ店やラスベガスのカジノへ行くと、大いに儲けた客が嬉しそうにしています。一方で、損をして悔しそうな顔をした客は少数派です。それを見て、「この店は客に優しい店だから、自分でも勝てそうだ」「しかし、それにしても客がこんなに儲かっているような店は、経営が厳しいはずだが、なぜ倒産しないのだろう?」と考えたことはありませんか?

 じつは、朝から店に来た客の中で、損をした客は既に店を出ており、今店に残っている客は勝っている客だけなのです。朝から来た客全員の状況がわかれば、きっと店が儲かり客が平均として儲かっていないということが理解できるはずなのですが、既に店を去った客にアンケートをとるのは容易ではないので、あらぬ誤解が生じかねないのです。

 カジノやパチンコくらいなら良いのですが、問題は起業家です。起業して成功した人は、「学生諸君、夢を持とう」などという講演をしますが、起業して失敗して倒産した人たちはひっそりと貧しく暮らしています。したがって、学生には起業して成功した人の情報しか入って来ません。そこで「自分も起業して大金持ちになろう」と考えたりします。

 筆者は若者が夢を持つことは良いことだと考えていますが、それはあくまでも正確な情報を持った上での冷静な判断に基づくものである必要があります。「起業すれば必ず金持ちになれる」といった誤解をしないように、学生をしっかり指導していきたいと思っています。

そもそも来なかった人の意見も聞きたい

 メーカー各社は、客からの苦情を製品の改良に活かしているようです。「御社の製品を買ったら壊れた」という苦情を聞けば、きっと頑丈な製品作りに励むのでしょう。しかし、一方で「御社の製品は重くてデザインが悪いから買わなかった」という人は苦情を言って来ないでしょうから、そうした意見は耳に入って来ません。そこで、頑丈で重くてデザインの悪い製品が開発されてしまうリスクがあります。

 本当ならば、他社製品を買った客に「どうして我が社の製品を買わなかったのか、どうすれば次は我が社の製品を買ってもらえるのか」を聞きたいところですが、実際には難しいのでしょうね。

 同様に、訪日観光客に対して「良かった点、悪かった点」を聞くことも大切ですが、日本に来なかった観光客に「どうして日本を選ばなかったのか、どうすれば次は日本に来てくれるのか」を聞いてみることも重要でしょうね。なかなか難しいことだとは思いますが。

  
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