2024年11月25日(月)

Wedge REPORT

2009年12月21日

 政治面ではどうかといえば、もとより中国は国連安全保障理事会の常任理事国である。それに伴うあれこれの特権をもつ。米国が政策を推進する際、重要度において中国は日本やインドに勝るのであるから、この先、米中関係がより広く、深い基盤を築いていくにつれ、米国がアジアにもつ既存の軍事的関係、ないし戦略的つながりに幾分でも緊張が走った場合、それは隠しようのないものとなる可能性が高い。

 一方にますます勢力を強める中国があり、他方にはアジアにおいて自分自身の経済的・政治的利益を押し出すことに狙いを定める米国がある中で、その双方に挟まれるかたちの日本、インドといったアジアの大国は、次第に厳しい安全保障上の選択に直面していくこととなろう。

 とまれ、中国の影はアジア・太平洋地域において伸び続ける。それが日本やインドの戦略的利益と直接ぶつかるまで、この先10年かかるかかからないかであろう。そうした状況に至れば、各国が防衛力を強化し、アジアのパワー・バランスが失われるのを避ける方途を模索することは、今以上に差し迫った問題となる。

歴史上初めて
日中印が鼎立する

 オーストラリアは最近発表した国防白書で、第2次世界大戦後最大となる軍備増強を計画していることを明らかにした。このことは、米国の安保の傘に入っている国でさえ、国家として十分な抑止力を築くことに代わる策はないという事実を思い出させてくれる。

 こうした情勢を背景に、日本としては防衛力の近代化にもっと大きな重点を置く必要がある。長期的には、日本が今以上に独立した安保体制を構築しようとすることは必然のなりゆきだろう。けれども日本においてはいま、米国との軍事同盟を強化する以外の途はほとんどないとする考え方が強まっている。中国が力にモノを言わせようという態度に出ているからで、ひとつのパラドクスだ。

 言うまでもなくここで視野から外れているのは、同盟には限界が生じ得るということだ。米国の政策は右へ、左へ変節し得るものだし、何かにとりつかれたようにもなり得る。実際、米国政府は中国との戦略的協調を強める過程で、誰かを認め他の誰かを排す種類のパートナーシップに信を置くことは、どの地域においてもないという姿勢を見せつつある。

 ひとつの大国が際限のない野心を抱いて登場するときはいつでも、ほかの強国が手を貸し勢力の均衡をもたらさない限り、当該大国周辺の小さな国々は大抵、ゆっくりとその引力に引き寄せられていくものだ。バランスに安定を取り戻すため決定的な期待がかかるのは、利益と価値を共にし、戦略的協調によってつながりあった一群のアジア諸国である。

 この点、日本とインドは自然な同盟である。歴史上の負の遺産がないし、戦略的利益の対立も存在しない。両国は、もっと緊密な戦略関係を築く必要がある。

 歴史上これまで、日本と中国、そしてインドが、時を同じくして強国であったことは一度としてなかった。未曾有の事態を前に、3カ国はいずれにせよ平和的に共存し、共栄していくため、互いの利益に折り合いをつける方法を見つけるほかない。

 しかしこれら3国の、さらにはこれに米国を加えた4国の、思惑の違いたるやどうだろう。米国は一極支配の世界を求めながら、多極的なアジアを望んでいる。中国は多極的な世界を求めながら、一極支配のアジアを望んでいる。そして日本とインドは、多極的なアジアと多極的な世界を望んでいるのである。

 

◆「WEDGE」2010年1月号

 

 
 

 

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