2024年11月21日(木)

WEDGE REPORT

2016年5月30日

 「自動車メーカーは、『スマホは自動車のアクセサリーの1つ』と思っているのですが、シリコンバレーの考え方では、『スマホにいろいろなモノがつながるうちの1つがクルマ』であり、実際の接続仕様もそうなっています。シリコンバレー側から見ると、IoT(Internet of Things、あらゆるものをインターネットに繋ぐ構想)のデバイスとしてクルマがあるといった考えなのです」

 杉本さんが、面白い話をしてくれた。HSVLでは、Siri(音声認識型のパーソナルアシスタント機能を開発した企業)がまだ無名のスタートアップの頃からすでに車載したいと考えて、コンタクトを取っていた。ところがある日、「申し訳ないですがこれ以上、話せませんし、理由も言えません」と告げられ、まもなくアップルがSiriを買ったというニュースが流れた。

「Siri eyes free」

 ベンチャー投資が目的なら「しまった! 投資をしておくべきだった!」となりそうなものだが、HSVLでは違った。以前からSiriとやり取りしていた知見もあり、すぐにアップルにSiri搭載のiPhoneをホンダ車に持ち込むデモをし、協業の提案をしたのだ。これにより、音声とハンドルのボタンだけでメッセージの送受信や電話、音楽の再生などをコントロールできるハンズフリーコミュニケーション機能「Siri eyes free」を他社に先駆けて搭載できたのだ。

 話のきっかけとしては、2012年初頭にHSVLでSiriとの連携機能を組み込んだプロトタイプ車を製作しアップルに持ちこんでコンセプトをデモしたところ大変好評で、直ちにアップル社内で開発がスタートした。ホンダ側も並行して、日本、オハイオの量産開発チームとHSVLが共同で開発を進め、2013年に日本で発売した新型フィットからいち早く「Siri eyes free」に対応した。

 また通常はマイナーチェンジやフルモデルチェンジまで、新機能が搭載されないのが一般的だが、すでにクルマが手元にある既納客に対しても、北米の2013年型の「アコード」、アキュラ「RDX」、「ILX」についてはソフトウェアをディーラーで書き換えるという、自動車メーカーとしては異例の「アップデート」まで行って対応したのだ。その後、スマホとクルマの連携をさらに一歩進めた「Apple CarPlay」、「Android Auto」の新型車への搭載も、北米で2015年秋発売の2016年型「アコード」、「シビック」から実施し、VWやGMといった世界の巨人に先駆けた対応を実現した。

 「もはや、自動車は走るスマホである」「いや、走る人工知能かもしれない」。そんなフレーズを口にすると、旧来の自動車ファンからは叱られるかもしれない。


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