2024年7月16日(火)

WEDGE REPORT

2016年5月30日

 具体的には、HSVL内にエンジニアを集めてハッカソン(「ハック」と「マラソン」を組み合わせた造語で、プログラマーやデザイナーが技術とアイデアを競い合う開発イベントの一種)を実施するといったことはもちろん、ユニークなアイデアを持つスタートアップが新しいセンサーやソフトウェアなどをクルマに組み込んでテストしたいといったときには、ベースとなる車両を提供したり、ホンダのエンジニアが組み込みのノウハウを教えるなどしたりもしている。ホンダの経営陣も、お客様にとっての価値に重きを置いて、いち早く世に出すという方針を打ち出している。

シリコンバレー流のUX

 「新車の開発には4〜5年もの期間を費やすのが一般的ですが、スマホは半年〜1年で新型が発表されますし、アプリのようなソフトウェアは1週間でアップデートされるなんてことも珍しくありません。しかも、シリコンバレーでは、自動車産業と違って、敵と味方がハッキリせず、メーカーとサプライヤーが協力体制を敷くこともあれば、時にはライバルになることもあります。

 例えば、スマホでは競争しているアップルとサムスンですが、部品レベルではサムスンの部品をアップルが使っています。一方、自動車産業では、自動車メーカーが頂点にあり、系列企業やサプライヤーが協力するといった開発体制が敷かれています。『走る』、『曲がる』、『止まる』はこれでガッチリとやっていますが、これからのクルマが『つながる』にはつながる相手があることが前提ですから、『独創的なアイデアで、ぶっちぎる』というホンダが得意とする流儀が通用しません。だからこそ、HSVLでは、ホンダ流ではなくイノベータとオープンに協業して、シリコンバレー流のUX(ユーザー体験)を重視したスピード開発を行っています」(杉本さん)

 確かに、自動車メーカーとシリコンバレーのベンチャー企業では、開発に対する姿勢も異なっている。自動車メーカーでは、お客様の生命や安全を第一に考えて、試験を繰り返して、完全に安全であるという前提で製品を世に送り出す。それに対して、テスラモーターズの例を挙げると、中型セダンの「モデルS」は、自動運転のプログラムが未完成の段階で発売がスタートしたため、自動運転に対応するデバイスを予め搭載した状態でお客様に手渡しておいて、ソフトウェアの開発が済んだ段階で、自動運転のソフトウェアをOTA(無線ネットワークを利用したアップデート)で配信するといった対応をする。こうした開発姿勢の違いを意識すること自体、シリコンバレーにいる意義の一つだろう。


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