2024年7月17日(水)

ACADEMIC ANIMAL 知的探求者たち

2009年12月20日

 あるとき、絵を指して、これなんやと倅に指摘された。「富士大名行列図」の左側にいる西行を見つけたのは、倅だったんだ(参考:花園大学国際禅学研究所HP「白隠の富士大名行列図の意味するもの」(芳澤勝弘著))。倅は絵を描くのがうまくてな。実際に描く人は観察力が違うんだと思った。

●では、人生をテーマに据える先生が、今後の人生においてやりたいことを教えてください。

――ひとつは、画賛研究。画賛というのは、水墨画が描いてあって、上に漢字で詩文なんかが書かれたものだ。重要文化財とか国宝とか、素晴らしい画賛がたくさん残されているのに、これまでは美術史の人たちが扱ってきたから、絵の部分ばかりが注目されて、上に書いてある賛(詩文)はややもすると無視されてきた。

 だが、画賛というのは同じ一つのイデアを、一方では絵画で表わし、一方では字で表すというスタイルで、これは東洋絵画の大きな特徴なんだよ。画と賛の両方を理解して初めて作品の意味がわかる。この研究を、美術史の人たちと共同してチームでやろうと思っている。

 水墨画賛は海外にもたくさん流出しているので、外国の研究者とも協同していきたい。こういう文化にも禅が深く関わっているんであって、とおりいっぺんの美術として扱っては困るんだ、ということを発信していくつもりだ。

 あと、白隠についても、すべてが終ったわけじゃない。白隠が60代後半で出した漢文の語録『荊叢毒蘂』全9巻は、白隠の代表作。この作品を、原文、現代語訳、注もつけて出版したいと思っている。できれば分冊でなく一冊で出したい。現在進行中なんだが、すでに2400頁ぐらいになっているんで、こんな本を出してくれる出版社があるんやろかと、ちょっと心配。

 ただ、わしは自ら世間に大見得切ってアピールするのは好きじゃないんだ。白隠にしても、わしは白隠の解凍者であり、通訳者であるにすぎない。白隠に著作権はないんだから、宗教家である坊さんたちが読んで、気に入ったら、白隠になりきって衆生に説いてもらいたい。それが坊さんの仕事だ。門前の小僧であるわしが先にたってしまってはいかんでしょう。

●編集者だったから裏方にまわるのが好きなんでしょうか。

――この期に及んでしまうと、もう誰が表に出るとかはどうでもよくて、大きなチームワークでやっていけばいいんだと思っているよ。大乗仏教というのは、自分一人ではなく、大きな船にみんなで乗るということなんだから。


◎略歴
■芳澤勝弘(よしざわ・かつひろ)
花園大学教授、同国際禅学研究所副所長。1945年長野県生まれ。同志社大学経済学部卒業。花園大学専任職員、財団法人禅文学研究所主幹を経て現職。

◆『白隠禅師の不思議な世界』

 

 



  

■修正履歴
2ページ目最終段落
「山田無文導師」は、正しくは「山田無文老師」」でした。お詫びして訂正致します。該当箇所は修正済みです。(2012年9月27日15:20)

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