08年の大統領選では、党のお金を衣服代に湯水のように使ったなど、全米メディアのバッシングにあった。ペイリンは本書の後半部分で、マケインの選挙対策本部のスタッフたちがキャンペーンを牛耳り、ペイリン自身もマスコミとの接触を制限されるなど、選挙対策本部の運営のまずさを厳しく糾弾する。党のお金で衣服を買ったとの報道に対しても、選挙対策のスタッフが勝手に買ってきたもので、自分が高価な衣服を望んだのではないと反論している。例えば、次のような説明もしている。
いかにも人気は出るタイプだが・・・
随所に目立つ狭量さ
The campaign had also purchased real pearls for the girls to wear on the night of my speech. After the big night, I made my daughters put them back into the store boxes and hand everything back to campaign staffers. We didn’t need fancy jewelry. (Not long after Todd and I married, we bought a $35 wedding band from a street vendor in Hawaii, and it still works!) (p230)
「選挙対策本部は、私が演説する夜のために、私の娘たちのために本物の真珠も買った。演説をした後、娘たちに真珠を包装ボックスに戻して、キャンペーンのスタッフにすべてを返させた。贅沢な宝飾品などわたしたちには不要だった。(夫のトッドと結婚してしばらくした後、ハワイの露店で35ドルの結婚指輪を買い、今でも使っています!)」
大統領選も終盤に近づき、オバマ陣営の優勢がほぼ確実になると、選挙対策本部の幹部たちが自分たちの評判に傷がつかないように、ペイリンをスケープゴートにすべくマスコミにペイリンを悪者にしたてる情報をリークしたなど、選挙戦を牛耳った選挙参謀を批判する。さらに、事実を確認せずに、過去にペイリンと対立したことがある地元の人からのリーク情報だけで、偏向報道を繰り返す大手メディアへの批判も尽きない。
今年7月にアラスカ州の知事職を突然、辞任した理由についても語っている。「チョコレートをもらったのは贈賄にあたる」「知事室でマスコミの取材を受けたのは違法だ」など、反対派が執拗に倫理規定をたてに、瑣末なことで訴えを起こし、その対応に忙殺され、知事としての仕事が十分にできなかったからだという。
本書の終わり近くでは再び、アメリカのあるべき姿を説きながら、オバマ政権に対する批判を展開する。
For example, I considered the Obama administration’s panicky effort to stimulate the economy by spending enormous amounts of borrowed money shortsighted and ill conceived. It defied the lessons of history and common sense. His nearly $1 trillion stimulus package was patently unfair both to the future generations who will inherit our wasteful debt and the everyday Americans who work very hard to pay the taxes that the administration seeks to spend at breakneck speed. (p356)
「例えば、オバマ政権が景気を刺激するために慌てて借金して巨額の金を使っているのは、近視眼的で戦略的な考えがないと思う。歴史の教訓と常識を無視するものだ。1兆ドル近い景気刺激策は明らかに不公平だ。無駄な負債を引き継ぐ未来の世代にとっても、一生懸命に働いて税金を納めているアメリカの一般庶民にとっても。オバマ政権はその税金を、無謀なスピードで使おうとしている」
さて、最後に、高い人気を誇るペイリンが、次の大統領選に出馬する可能性はあるだろうか。評者が自伝を読んだ限りでの印象では、ペイリンは人間としても政治家としても、大統領になるだけの器がないと思う。まず、負けた選挙戦の内幕を暴いて選挙参謀を批判する狭量さが気になる。自分が正しいと信じることを貫く信念を随所で強調し、アラスカ州知事としての実績もあるものの、政治とはそれほど単純なものではないだろう。
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