都会に根を張る一店舗主義

2016年6月16日

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 そして、もう一つ大事な特徴がある。それは、本来の黄檗宗の普茶料理は、4人一組で座卓を囲んでいただく大皿料理だということ。一度、黄檗宗の寺、群馬県の少林山達磨寺の有名な正統派普茶料理をいただいた時には、それは驚いた。京都のお寺さんのちょっと盛りお精進とは打って変わって、ゴージャスな物量である。目にも楽しく、一つ一つが美味しいから完食してしまうのだが、揚げ物もあるから満腹感が凄い。次回は、前日から断食しておこうと決意したほどのお精進だった。

 しかし、この『梵』は、いわばその間、程よい分量で、普茶料理の平等の心を受け継ぎながら、一人ずつお皿に小分けしたコース料理でいただくことができる。だからこそ、個人主義の徹底した欧米のお友だちにも受けがよく、それが、伝統を受け継ぐだけではない『梵』という店の創意でもあり、お気に入りの所以でもある。

コースがお薦めだが、平日にだけいただけるお弁当、昼席普茶弁当もある。これに揚げ物や素麺、水菓子もつくので量も充分

先代の母から教わった
家族の健康をいたわる料理が基本

 『梵』の創業は、昭和34年、今から57年前に溯る。創業者は、古川さんのお母様の美重子さん。山形県の鶴岡の医者の家に生まれたお母様は、4姉妹の末娘。東京の女学校で学び、栄養士の資格をとる。

 「この界隈が寺町なものですから、自宅を改装して、ここで精進料理の店を始めたのが、最初です。お料理の基本は、家庭にあります。家族の健康を守るために日々、作るお料理が基本です。私の料理の基本は、母親から受け継いだものです。小学校の高学年で、店の皿洗いなど手伝っておりましたからね」

 この先代から教わった家庭料理の味わいが、医食同源と言われる精進料理の根底とも通じ合うのだろう。

 「それから、お店のお料理に関しては、親戚に、松前藩の末裔にあたる松前さんという方がいて、その方がとても風流人で料理が趣味でした。自宅で料理を作るにも、築地に買い出しに行くような方で、画家の伊藤深水が出入りしていたような家ですから。その方にもずっとお店を手伝っていただきながら、いろいろ教わりました」

 その後、古川さんが、20才になった時、入退院を繰り返していた病弱な父親が倒れたことをきっかけに、ぼんやりと美術史でも学ぼうかと考えていた進学を断念、店を支える決意をする。そこで直談判して修行した先が、京都の黄檗宗の萬福寺だった。

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