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2016年6月8日

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田部康喜 (たべ・こうき)

コラムニスト

福島県会津若松市生まれ。幼少時代から大学卒業まで、仙台市で暮らす。朝日新聞記者、朝日ジャーナル編集部員、論説委員などを経て、ソフトバンク広報室長に就任。社内ベンチャーで電子配信会社を設立、取締役会長。2012年春に独立、シンクタンク代表。2015年10月から東日本国際大学客員教授として地域振興政策を研究、同大・地域振興戦略研究所副所長を兼務。


金正恩氏が権力基盤として、軍を掌握しようとしながら、その一方では軍によるクーデターを恐れていることが、文書から浮かび上がった。父親の金正日氏の死亡によって、権力を引き継ぐ過程において、軍の規律が著しく緩んでいたのである。

 権力の移行があった2011年の直後、機密ファイルは、第3軍235部隊で起きた不祥事を報告している。この舞台はピョンヤンから50キロの距離にあって、ピョンヤンを守る役割を担っている。指揮官が無断で120日間も勝手に不在になったり、11人の軍人が金儲けのために脱営を図ったりしたというのである。さらに、軍人が麻薬取引にも手を染めていた。

クーデーターを恐れている

 機密文書に含まれていた、軍の陣地、高射砲の位置、射程範囲から軍の配置を地図化すると、首都ピョンヤンが軍の空白地になっているすなわち、軍を置いていないことがわかった。クーデターを恐れていることがうかがえる。

 尚美学園大学の鐸木昌之教授はいう。

「金日成氏と金正日時代は軍の忠誠心が高かった。それが揺らいでいるのを知っているは、金正恩氏とそのファミリーだろう」と。

 金正恩氏の軍に対して、次のような指令を出している。

「山奥に落ちる針1本の音も私に知らせよ」「逆らう者は粛清せよ」

 ソウル在住の脱北者の元北朝鮮軍の軍人による証言によって、軍人に対する裁判と粛清の様子が、CGを使った映像で再現されている。

 軍人会館と呼ばれる法廷の壇上に引ずり出された軍人は、階級章をはぎとられ、手には鎖をかけられている。元軍人による証言によると、軽い罪でも死刑になる場合がある。「100人、1000人の軍人に恐怖を与える」と。

 要職に就いていた軍人の去就はこれまで、その姿が公場から消えたことによって推測するしかなかった。機密文書はこれまで謎だった、リ・ヨンホ人民軍総参謀長の粛清について詳細に記録していた。

 粛清の原因は、金正恩氏の指示なく、パレードの軍隊を指揮したというものであった。その後、リ氏は軍隊のなかで「野郎」呼ばわりされている。文書は軍について「たとえ頭の上に雷が落ちようとも、足元に爆弾が爆発しようとも、金正恩同士の指示なく動いてはならない」という。

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