当局が大会会場やパブリック・ビューイングと同様に警戒しているのは、各国チームの宿泊施設だ。44年前のミュンヘン五輪でイスラエル選手団の宿舎が襲撃された事件を治安当局者は忘れてはいない。また無人機を飛ばして空から爆弾や化学物資を投下するリスクもあり、当局の心配は尽きない。
ラマダン・テロを予告
こうした懸念に拍車を掛けているのがIS本家から出た不気味な予告だ。ISの海外作戦の元締めで、公式スポークスマンであるモハメド・アドナニは5月、6月6日から始まったラマダン(断食月)の間、西側の不信心者に厄災が降りかかるだろう、と不気味に予告した。
アドナニはさらに欧州在住のイスラム教徒に対して、欧州の市民を攻撃するよう強く求めた。アドナニは過去にもこうした呼び掛けを行い、刺激を受けたイスラム教徒がカナダやオーストラリアなどでローン・ウルフ(一匹狼)型のテロを起こした。
ラマダンはイスラム教徒の宗教心が高まる時期で、昨年の6月のラマダン時にもフランス、クウェート、チュニジアで3大陸同時テロが発生、いずれもISの関与が明らかになっている。
「ISがイラクとシリアで軍事的に急速に追い詰められていることもサッカー大会が標的にされる大きな要因」(仏治安当局筋)だろう。そこには欧州でテロを仕掛けることで社会不安を巻き起こし、欧米のIS攻撃を鈍らせたいとする狙いがある。
フランスは東京の後の2024年の夏期五輪の候補地の1つ。「欧州選手権は五輪への入学試験でもある」(西側アナリスト)。フランス政府には、大会を無事に乗り切り、万全な治安を誇示することで五輪につなげたいという思惑もあるようだ。
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