事の発端は昨年9月、京丹後市が国家戦略特区に交通空白地におけるライドシェア構想を申請したことに始まる。市はこの構想でウーバーの参画を想定していた。実現にはライドシェアの法制化を経て特区認定される必要がある。
京丹後市が特区申請した直後の10月20日に、安倍晋三首相が国家戦略特区諮問会議で「過疎地等での観光客の交通手段として、自家用自動車の活用を拡大する」との意向を示すと、タクシー業界の危機感は一気に強まった。
現行の道路運送法では「ささえ合い交通」のように自家用車の有償運送が認められているのは交通空白地など限定的だ。首相の発言を素直に受け止めると、「過疎地等での観光客」と対象は限定的で、現行法とも大差がないようにも見えるが、ここを突破口として「岩盤規制」を打破し、日本の競争力を強化していこうというのが国家戦略特区の狙いである。そのため「過疎地だからといって特区で白タクを一度認めてしまうと、将来、都会での解禁につながりかねない」(京都府タクシー協会・安居早苗会長)とタクシー業界は戦々恐々としている。
特区申請が撤回される余地は残っているのかを探るため、昨年11月、京都府タクシー協会の幹部らが特区構想を推進する中山泰市長(当時)に面会したところ、「交通空白地だから仕方ない」とつれない返事が返ってきた。そこで協会が出した結論が、次の通常国会で特区法にライドシェアが盛り込まれても、京丹後市が特区認定されないように「環境整備」を行うことだった。つまり、今年の早い時期に交通空白地を解消するために営業所を復活させる作戦だ。
こうした特命を帯びて「網野タクシー」を開設した、高速タクシーの松田有司社長は、「ここで採算を取るのはどう考えても無理やろうと思ったが、誰かがやらないといけない。持続性をもたせるために従業員は現地採用した。タクシー2台、所員4人と規模は小さいが地域に定着できるようにチャレンジしたい」と現地化する構えだ。開所後1カ月の業績は、「人件費が何とか出せる程度」とやはり厳しい滑り出しのようだが、海水浴やカニのシーズンの需要に期待を寄せる。
タクシー協会などからの金銭的補助はないと言うが、ウーバーに対抗するかのように、全国の都道府県でタクシーを呼べる配車アプリを無償で提供してもらっている。ただし、1カ月でアプリ経由の配車はゼロ。
「高齢者が多いこの辺りのエリアでは、やはり電話での配車が基本。ウーバーは現金決済もできないし予約もできない。うまくいくんですかね」と隣町のウーバーの動向にも目を光らす。