2024年11月22日(金)

前向きに読み解く経済の裏側

2016年9月19日

 泥棒も、今回は自白して刑を免れたとしても、泥棒業界で「裏切り者」と呼ばれるようになり、次からの泥棒案件では誰も仲間に入れてくれない、という不利益を被ることになります。それなら今回少しくらい罪が重くなっても、泥棒業界で「仲間を裏切らない」という評判を得た方が得でしょう。

安売り競争も囚人のジレンマ

 日本に牛丼チェーンが2社だけあるとします。2社とも高値で売れば、2社とも儲かります。一方が安売りをすると、安売りした方は儲かりますが、しなかった方は客をライバルに取られて大損します。両方が安売りをすると、両方が少し損をします。状況は、AとBの喧嘩や囚人の自白と全く同じです。

 こうした状況では、御互いに値下げをした方が有利ですから、どこまでも安売り競争が続いてしまうかも知れません。

 こうした場合、本来ならば「御互いに安売り競争はやめよう」という相談ができれば良いのですが、そもそも、AとBの喧嘩と同じで御互いが合理的に行動している結果として安売り競争が生じているわけですから、簡単ではありません。上記の喧嘩の例に倣って、「今日は当社は値下げをしない。ただ、御社が値下げをしたら、当社も値下げをする。今日、御社が値下げをしなければ、明日も当社は値下げをしない」と宣言するのが良いとは思うのですが、そうすると別の問題が生じます。下手をすると独占禁止法違反に問われる可能性があるのです。

 「共謀して値段を吊り上げて顧客に損害を与えた」というわけです。AとBが仲良くするのは良いことですが、巨大チェーン店同士が仲良くすることは悪いことだ、というわけですね。

 牛丼だと難しいですが、家電製品の小売りチェーンの場合、素晴らしい方法があります。「我が社は最安値を保証します。他社が我が社より安い場合には、我が社も値下げしますので、お知らせ下さい」という宣伝をするのです。

 この宣伝は、顧客に向けて「我が社が一番安いですよ」と宣伝すると同時に、ライバル店に向けて「わかってるだろうな。我が社より安く売ると、対抗値下げが待ってるぞ」と知らせているのです。同時に、公正取引委員会に向かっては、「我々は談合など行なっていませんよ」とアピールしているわけです。

 では、なぜ家電製品の小売りに出来ることが牛丼チェーンにできないのでしょうか。それは、同じ品質の製品でないので、最安値か否かの比較が難しいからですね。だから下手をすると極端な安値競争が展開されてしまうのでしょうね。

  
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