そもそも、18歳や19歳の有権者にかかわらず、若い有権者の投票率が押し並べて他の世代よりも低いのは、(1)政治に対する関心が低い(学校以外の社会との関わりが少ない)、(2)投票に対する権利意識が高い(義務感が低い)、(3)自分の票の影響力に疑いを持っている(投票してもなにも変わらない)からである。しかも、学校教育の現場では、政治的中立性が要請されるあまり、政治や選挙の仕組みを知識として教えることはあっても、政治参加の実践を促す教育を怠ってきた。こうした学校教育に関しては様々批判されることも多いが、これには仕方がない面もあり、学園紛争が華やかだった時代には、大学生のみならず高校生もそうした闘争に身を投じ学園当局に対峙することもしばしばで、生徒を政治問題から遠ざけようとした教育現場の意図は理解できる。ただし、その結果、政治は自分とかけ離れた世界の出来事であると認識する若者が増え、投票率が低迷したのである。
そうした反省に立って、今般の18歳選挙権の導入に際しては、18歳有権者に対して、学校教育の現場で、政治的中立性の確保に慎重に対応しつつ、教師や選挙関連のNPO団体による主権者教育が積極的に行われた。その結果、18歳有権者の政治意識が高まったのに対して、高校を卒業してしまっておりそうした機会を与えられなかった19歳有権者は従前の若い有権者同様、低い投票率になったものと考えられる。
裏を返して言えば、適切に設計された主権者教育は若者の政治的関心を高めるには非常に効果的であり、今後も継続して取り組んでいく必要がある。
また19歳有権者に関しては、大学進学や就職で地元を離れたにもかかわらず、住民票を移していなかった結果、投票に行かなかった者が一定割合で存在した点も指摘でき、親元を離れた場合は必ず住民票を移すことを徹底するなど対策を行う必要がある。
若いときに選挙に行かなかった世代は
その後の投票率も低迷する
図1(i)は、過去に行われた衆議院議員選挙に20代として投票に参加した者を一つの世代とみなし1、その後の各世代の年齢別投票率の推移を示したものであり、図1(ⅱ)は、参議院議員選挙に関して同様の動きを示したものである2。図1(i)(ⅱ)からは、衆議院議員選挙、参議院議員選挙問わず、有権者年齢に達した後の国政選挙に初めて参加する20代で投票率が低迷した世代は、その後の国政選挙においても投票率がそうではない世代に比べて低く推移することが分かる3。つまり、選挙権年齢に達した時点における投票に参加したか否かがその後の投票行動をある程度規定してしまうのである。
以上から考えると、今回の選挙で投票権を得たものの投票に行かなかった者は今後の選挙にも参加しない可能性が高いため、投票を促すような取り組みが重要となる。
1:具体的には、1967年に実施された第31回衆議院議員総選挙に20代として参加した者を1967年世代、同じく1986年に実施された第38回衆議院議員総選挙に20代として参加した者を1986年世代、同じく2005年に実施された第44回衆議院議員総選挙に20代として参加した者を2005年世代とした。
2:参議院選挙の年齢別投票率が1989年に実施された第15回参議院議員通常選挙以降のデータしか入手できないため、衆院選挙よりも標本数が少ないことに留意する必要がある。
3:一般的に、世代別の年齢別投票率を時系列に見ると、(1)年齢が若い時には投票率は低く加齢とともに投票率が上昇しその後投票率が低下する逆U字型のカーブを描く(年齢効果)、(2)ある年に実施された選挙では全ての世代の投票率が高くなる一方、また別の年に実施された選挙では全ての世代の投票率が低くなる場合がある(時代効果)、(3)低い投票率から出発した世代はそうでない世代に比べて生涯を通して投票率が低くなる傾向にある(世代効果)、という特徴を指摘することができる。年齢効果は、加齢するにつれて社会参加が進み政治に関心を持つようになることから投票率が次第に上昇するものの、ある程度加齢すると身体面の理由から投票に参加できなくなる傾向にあることを表す。時代効果は、例えば大きな争点の有無、政治家・政党のスキャンダルの有無等、選挙時点に生きる全ての世代に等しく影響を与えるイベントの影響を表す。世代効果は、ある特定の年齢集団が共通して持つ選好を表す。例えば、「投票を権利」と考える世代では年齢を通じて「投票を義務」と考える世代より投票率が低くなっている。