2024年12月6日(金)

この熱き人々

2016年8月19日

 観客の心の波形も一定ではない。このまま終わらなかったらどうしよう。終わってしまったらどうしよう。その日によって、その時々によって、客席からのエネルギーは色合いが違い、ダンサーはそれらを内に取り込むことで、作品は刻々と変化していく。まさに更新されていくアップデイトダンス。

 だとすると、舞台上での際限のない時と動きの関係はどうなっているのだろう。もし振り付けられているとしたら、完璧に覚えられるものなのか。繰り返しのようでいて、動きは単純な繰り返しではないのだ。

 「日舞やクラシックバレエのようにきっちり構成された流れがあって、それを確実に形で覚え再現していくという意味での振り付けはありません。でも、即興というその場その場の気分に任せて踊るというものでもない。ジャズのコード進行のように基本的な大体の流れは決まっていて、フリージャズの感じと言ったらいいのかな」

 まだ見ぬ先の時間を約束事で縛り、完璧だったかどうかを確認して安心して終わるというダンサーと観客との関係を、勅使川原は望んでいない。かといって、すべてを気分任せで偶然に委ねてしまうこともよしとしない。

 「日本でも外国でも、僕がダンサーに求めるのは、瞬間にどうやって焦点を合わせられるかということ。葛藤し自分を追い込みながら、瞬間瞬間の感覚を的確にとらえていかに必然性をつくっていけるか。どんな職業でも共通する価値観だと思うけど、芸術は瞬間に最も美しいものをつくる。ただ、全体を俯瞰(ふかん)した価値観や世界観を自分の内に持っていないと瞬間の必然性をとらえることはできない」

 瞬間の必然性とは、流れていく時の中で、音や空間や観客と溶け合いながら、今この瞬間にはこれしかないという動きが生み出せるかどうかということか。

 「ズバリそれです。その瞬間まで知っていたこと、見てきたことを超えてもっと強く深く感じることができるようなもの。知っていると思っているから感じられないこともあるし、見えていることに頼ると見えないものもあるから」

 ダンサーも観客も、それまで無意識にまとっていた殻を脱して、新たな瞬間に身を置くのは面白そうでもあり、若干不安でもあり、そんな時の流れを重ねていくには相当なエネルギーが必要な気もする。

 「創り続けるしたたかさも必要ですよね。きりもみ状態でねじれながら自分を追い込む。葛藤や不安も一緒にぐるぐる回して苦しい瞬間に、一気に形になって爆発する。その時に、勅使川原は何を伝えようとしていたのかが問われる。こういうことを作品の構造として持たなければいけないと思っています」


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