「何ができるかの『何が』すらわからないところからスタートしていますから。到達点とか目標地点を設定してそこに向かっていくというのとは正反対。今、ここでゼロから始めてどこに行けるのか、どこまで行けるのか。変化し続けながら行けるところまで行き続けることが面白い」
さて舞台では、果てしない音と踊りの後に静寂が訪れ、日常の時間が戻った。そこから勅使川原のトークが始まる。ダンサーはもっと言葉を持つべきだというのが持論。勅使川原自身も言葉があふれている。
「ひとりひとりの感覚や動きをどんな言葉に置き換えられるのか。感じていることを言語化できた時、ダンスをより深くより正確により発展的に考えることができる。それによって踊りもまた深くなると思っているんです」
今自分の中でうごめいている感覚を言葉にするというのは、その感覚を突き詰めていくこと。漠然とした何かをつかまえ、言語化することで、今感じていることをより深く強く認識し、共有することができ、それが次の創作への胎動につながる。
踊りを生む感性の土壌を言葉で掘り起こしそれを伝える言葉を持てと熱く語る勅使川原は、国内、国外で常に複数の仕事を抱えて、活動もまた熱くエネルギッシュ。話をしながらも、頭の中では直近の公演予定のアップデイトダンス3作品のことが浮かんだり消えたりしているようだ。秋にはジャズピアニスト山下洋輔との共演、さらに9月の「あいちトリエンナーレ2016」ではモーツァルトのオペラ「魔笛」の演出が待っている。
「ひとつ終えて次に取りかかるってスタイルじゃないんです。すべてが僕の中で同時進行して影響し合っている。川の流れのイメージ。いくつもの支流から水が流れてきて合流した川を、支流毎に区別なんてできないですから」
あいちトリエンナーレ2016のコンセプトは「創造する人間の旅」。複数の作品が勅使川原の中で合流し、混ざり合い、それぞれが影響し合いながら時に回転し、時に渦巻き、時に石にぶつかったり、ゴミを飲み込んだりしながら、河口へと旅していく。そんな様子は想像できても、どんな作品が生まれるのかたやすく想像などできるものではない。だって勅使川原三郎だから。それゆえに、いっそ河口で待ち構えてたまげてみたいという思いが募ってくるのである。
(写真・岡本隆史)
てしがわら さぶろう/1953年、東京都生まれ。クラシックバレエを学んだ後、81年に創作活動を開始。85年、自身のカンパニーKARAS(カラス)を結成、未知の身体表現を追求し国内外で公演活動を続ける。照明、美術、衣装、音楽も手掛け、欧州の名だたるカンパニーへの振り付けやオペラの演出でも活躍中。
勅使川原三郎+KARAS公式サイト:http://www.st-karas.com/
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