2024年7月14日(日)

この熱き人々

2016年8月19日

 「どうも日本は、好き勝手にやっている者は勝手に困ってろっていう仕組みになっているみたい。大変だけれど、ここには他ではありえない価値がある。個人的なものがいかにパブリックになりえるか。何千、何万人という規模じゃなく、数百人、数十人でも僕はパブリック、公共だと思っています。表現者としてダンサーとして、不特定多数の人と出会う場があるのは重要なことで必要なことです」

 ここでは勅使川原のダンスメソッドのワークショップも開催され、ダンサーを目指す人ばかりでなく、年齢、経験を問わず、すべての人に開放されている。

公演中も毎回更新され進化するアップデイトダンス

瞬間に焦点を合わせる

 この日は、「アップデイトダンスNo.33 もう一回」の最終日。カラス・アパラタス誕生と同時に第1回が始まり、33回アップデイトされ続けているということで、勅使川原の思い入れの強さがうかがえる。

 B2の劇場は早々と満席。ダンスを志していると思われる人も多いが、買い物帰りのような人や、好奇心で入ってきたものの、何が始まるのかちょっと不安そうな人もいる。

 「今なら帰ろうと思えば帰れる。世間話もできる。まだ日常の中にいるけれどこれから非日常に引きずり込まれるような、何かあやしい気分ね。この感じこそダンスファンでない人に経験してもらいたい。気持ちが揺さぶられたり、日常では見えなかった何か、感じなかった何かを発見したり経験したりしてもらいたいんですよね」

 いわば開演前の気持ちのウォーミングアップ。日常と非日常の境目から音が消え、光が消え、暗転した舞台から流れてきたのはショスタコーヴィチのワルツ。勅使川原の愛弟子で今や欠かせないダンスパートナーでもある佐東利穂子(りほこ)のソロ、続いて勅使川原のソロ、ふたりのダンスという構成が繰り返される。ワルツも延々と繰り返される。ワルツといっても、旧ソ連のスターリンの圧政時代に、自らの求める音楽と体制が求める音楽との狭間で葛藤しながら皮肉や批判を曲の中に密かに仕込んだショスタコーヴィチのワルツである。華やかさとは縁遠い。勅使川原と佐東の終わりのないダンスに、またぞろ心の中が波立ってくる。そんな客席の波動は、舞台上の勅使川原にはどう伝わっているのだろうか。

 「ひとりひとりの顔や姿はよく見えないんですが、存在ははっきりと感じられます。観客の力、エネルギーは相当に強くて、そのエネルギーが舞台に与えてくれるものは大きい。客席と舞台とが行ったり来たり交感できるのが一番面白いんです」


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