日本は、先進国の中では突出して高い90年比25%削減という数値目標を掲げて、国際的リーダーシップを取る狙いだった。しかし、会期中はほとんど注目されず、途上国への財政的支援で110億ドル(12年までの3年間)という巨額を提示したにもかかわらず、新たな枠組み構築という本質的な議論には、実質的貢献ができなかった。
米国と中国との2国間の外交的駆け引きに一枚加わるためには、外交戦略の工夫が必要である。日本は世界の排出量の4%を占めるに過ぎず、そうした排出小国が数値目標の高低だけで影響力を発揮することには、そもそも無理がある。経済合理的な削減余地を大幅に上回る目標を掲げても、各国からは排出権を購入してくれる「いいお客様」扱いされるだけだ。25%削減を掲げて以来、日本が海外メディアに登場するのは、クレジット・バイヤーとしての文脈がほとんどなのが現実だ。
日本温暖化外交の あるべき姿
「数値目標を基軸とした駆け引き」という京都議定書時代の旧式な発想から抜け出せない日本に対して、今回の交渉プロセスで意外に存在感を示したのは豪州である。排出量自体は大きくないにもかかわらず、ほとんどすべての重要な文書の原案作りに参画し、交渉の節目ごとに米国や英国の相談相手になっていた。中国通のラッド首相は中国との意思疎通も十分にできていた。
排出小国である豪州が存在感を示せたのは、09年の早い時点で、米国及び主要途上国の双方が合意しうる次期枠組みの基本構想を打ち出していたからである。各国の国内事情やタイムフレームに配慮しつつ、削減行動に関する自主的な取組みを促すようなルール(スケジュール・アプローチ)を提案したことで、先進国と新興国の間のブローカー役を引き受けることが可能になった。これこそ鳩山由紀夫首相が目指していた「架け橋」だろう。
今回の交渉を経験することで、現政権の首相・閣僚レベルは、数値目標を提示するだけでリーダーシップが取れるというのは幻想だと実感できたのではなかろうか。MRV(測定・報告・検証システム)のあり方、オフセット・クレジット・システムの将来構想の違いによる利害の違い、温室効果ガス削減だけではなく温暖化への適応策支援の外交戦略的重要性など、新たな枠組みを模索していく際には、考慮すべき多くの論点が存在するのだ。
先進国が排出量の6割を占めていた京都議定書時代と異なり、発展途上国にも相応の負担をしてもらわなければ、温暖化問題は解決しない。こうした構造変化を正確に認識し、数値目標競争にまい進するのではなく、公平かつ実効性ある問題解決の枠組みを総合的に構想する外交力が必要になっている。本年1月末までに提出する中期目標は、世界各国の目標と比べて突出している現状を改めて、経済的・技術的にバランスのとれたものに見直すなり、幅を持った数値目標に改定するとともに、コペンハーゲン合意を基礎とした次期枠組みの具体的構想の提示に外交の重心を移していくべきだ。
その際、政権交代以降顧みられなかったセクター別アプローチ(各国の産業・部門別に、技術的・コスト的に削減ポテンシャルを分析し、技術移転を軸として世界レベルの削減を達成していく方式)を再活性化することが一案である。
これは、各国がセクター別に削減に取り組んでいくために、実施すべき政策措置を相互に国際的に約束しつつ、それによる効果を検証(MRV)していく枠組みである。数値目標ありきではなく、各国が行う政策措置を国際的に分析・検証し、その内容について相互に知識を共有すること、さらに、大きな効果が実証された政策措置を他国に移転・普及していくことを枠組みの中心に据えることが重要だ。