国連主義から 脱却せよ
気候変動枠組み条約は、国連がベースとなった国際的協力体制であり、意思決定手続きは、一国一票でコンセンサス主義が慣例となっている。冒頭で述べたように、コペンハーゲン合意が最終局面において数カ国の反対だけで「決定」に至らず、「留意」にとどまった状況を目の当たりにすると、国連型の意思決定方式の限界を感じる。
今回の交渉プロセスでは、よくも悪くも中国の存在感が圧倒的だった。中国は世界最大の排出国であるがゆえに、問題解決には同国の合意が必要不可欠であり、合意案も必ず事前の相談を受ける立場にある。しかし、その一方で、途上国グループのリーダーとしてふるまいつつ、途上国の数をタテに議事進行を左右する影響力も持っている。
コペンハーゲン合意に至る交渉プロセスで、中国はこうした地位を最大限活用する戦術をとり、その態度が先進各国首脳を相当苛立たせた。すべての先進国、特にEU−ETSの安定化を狙っていたEUでさえも、京都議定書から脱却して新たな一つの枠組みに移行することにこだわったのは、中国のポジションが未来永劫続くことに強い懸念を持ったからではないだろうか。
COP15は、13年以降の枠組みを決める重要な会議として、各方面から大きな期待を集めていた。しかし、その結果はこれまで2年間の交渉過程で積み上げられてきた最大公約数的な合意事項をまとめたものにしかならなかった。気候変動枠組み条約による交渉は、WTOの交渉に似てきている。WTOも構成国数が多数に上るため、交渉プロセスが複雑化したうえ、各国の利害が対立した結果、何度も交渉が決裂している。こうした状況に対処するため、各国は自らの重要な貿易相手国と2国間の自由貿易協定や経済連携協定を結ぶことが主流になってきている。
温暖化対策に関する国際協力も、こうした対処方法を模索する時期が来ているのではないだろうか。国連における交渉プロセスに代替するとまでは言わないまでも、補完的な位置づけとして、2国間や地域内での協力で温室効果ガス削減を進めていく仕組みを用意すべきだ。COP交渉の妥結を待っているだけでは温暖化防止が間に合わない。日本の産業力や技術力を活かした形で、技術移転と資金援助を基軸に据えた地域内連携による温暖化防止を目指していく構想を検討すべきである。
日本が提唱すべき 新たなスキーム
具体的には次のようなスキームが考えられる。日本とアジアの途上国が、省エネルギー・再生可能エネルギー・原子力分野などで協力する「行政協定」を締結し、相当規模の温室効果ガス削減を進めていく。同協定には次のような要素を盛り込む。
(1)前記3つの分野などで、両国政府及び民間専門家が、共同して進められるプロジェクトを調査してリストアップし、順次着手を決定。
(2)それらのプロジェクトで削減できる温室効果ガスのベースラインからの削減目標値または原単位目標値を設定。
(3)(2)の目標値を達成した場合に生じるオフセット・クレジットを、両国間で合意するMRVによって、両国政府が共同で「認定」し、資金・技術の貢献度に応じて按分する。これによって得られたクレジットは、日本国内制度だけで使用する(現在の制度を前提とすれば、自主行動計画や排出権取引試行制度の遵守のためのオフセット・クレジット・カウントに使用することを認める)。