2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2010年1月22日

 また、EU(及びその金融業界)にとっては、域内の排出権取引市場(EU−ETS)の価格安定(できれば上昇)が極めて重要で、削減目標に関する遵守義務が厳しいほどその効果が大きいことから、京都議定書を続けていく動機を有している。また豪州も、ラッド首相が京都議定書批准を政治的争点として政権を奪取し、国内で排出権取引制度を導入する法案を推進していることから、EUの利害と通じるところがある。また、ラッド首相は中国通であることから、豪州と中国が相当接近していることは周知の事実であった。

 こうした各国の利害構造が存在する中、昨年11月にUNFCC(気候変動枠組み条約)事務局のデ・ブア事務局長が、COP15の政治合意案として、京都議定書の枠組みと米国と途上国が入る枠組みの二重構造を目指したアイデアを提示したことから、日本国内では、COP15で「米国には逃げられ、日本は京都議定書に永久にからめとられる」という状況に陥る危険性が認識され始めた。この点は、産業界のみならず、労働組合も深刻な懸念を示し、COP15の交渉プロセス半ばごろに、こうした案に日本政府も傾いてきた旨の報道があった際には、間髪を入れず、反対声明が続々と発表された。

 実際には、日本政府は京都議定書(の付属書B)に25%削減目標を書き入れることは絶対ないとの固い姿勢を貫いており、それが各国にも認識されていたことによって、結果として危地に陥ることがなかったことは高く評価される。ただ、交渉プロセスが、一挙に首脳級折衝勝負という混乱した事態になったことが日本に有利に働いたことも事実であり、そうでなければ、日本を上記のような状態に徐々に陥れようとするさまざまな仕掛けが準備されていたとの見方もある。

 コペンハーゲン合意では、1産業革命以前に比べて2℃を超えないレベルに温度上昇を抑えるためには、温室効果ガスの大きな削減が必要、(2)先進国は20年の中期目標を、発展途上国は温室効果ガス削減行動計画を、10年1月末までに提出、(3)発展途上国は行動を国内的に検証し国際的な分析や議論に協力、などが決まった。コペンハーゲン合意は、仮に数値目標が達成されない場合でも、罰則もクレジット購入義務も課せられない新たな仕組みを方向付ける、政治的な合意となった。

 そうした緩い合意であったとしても、まずは米中に削減行動をとらせることが必要で、両国が関与しない京都議定書では、未来の地球を救う枠組みとはならないという結論に至ったことは大きな成果だろう。ただし、コペンハーゲン合意は、法的合意文書の有無にかかわらず実行に移される性格のものとされ、将来に向けて法的拘束力のある議定書が新たに作成されるかどうかは、今回の合意では明確になっていない。

 コペンハーゲン合意と京都議定書との関係は、上図に示した文言となり、日本が恐れていた最悪の事態は避けられた。しかし、次回COP16でも再び京都議定書第2約束期間の目標設定問題は表面化するだろう。その意味で、今回で終了するはずだったAWG−LCA(京都議定書ではない次期枠組みに関する作業部会)の存続と、COP16をその検討期限とすることが決定されたことは、地味ではあるが、京都議定書以外の交渉の場が確保できたという意味で非常に大きな成果である。

数値目標では
リードできない

 2週間に及ぶ交渉プロセスでは、世界の排出量の約2割ずつを占める米国と中国が何らかの共通理解に至るかどうかが最大のポイントだった。常に温暖化外交をリードしてきたEUは90年比20~30%削減という目標を掲げていたが、内実は厳しい温暖化対策をとることなく達成できる目標だということがNGOなどに見破られており、むしろその裏表のある姿勢が批判された。また、EU−ETSのために京都議定書によって第2約束期間の目標を設定するという戦略も、米中の対立が激しくなる中で埋没してしまった。 


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