海野素央のアイ・ラブ・USA

2016年7月27日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授 心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08年~10年、12年~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年と12年米大統領選挙で研究の一環として日本人で初めてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。激戦州南部バージニア州などで4200軒の戸別訪問を実施。10年、14年及び18年中間選挙において米下院外交委員会に所属するコノリー議員の選挙運動に加わる。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。中西部オハイオ州、ミシガン州並びに東部ペンシルべニア州など11州で3300軒の戸別訪問を行う。20年民主党大統領候補指名争いではバイデン・サンダース両陣営で戸別訪問を実施。南部サウスカロライナ州などで黒人の多い地域を回る。著書に「オバマ再選の内幕」(同友館)など多数。

トランプ・バージョン

 トランプ候補は、ニクソン元大統領が用いた「法と秩序の回復」というメッセージを「トランプ・バージョン」に変えて発信しています。たとえば、上で説明した白人の警察官とアフリカ系の衝突に加えて、不法移民を標的にしたメッセージとして活用しています。

 昨年6月16日に出馬して以来、トランプ候補は不法移民は麻薬売買人、犯罪者及び強姦者であると繰り返し主張してきました。同候補は、不法移民は法を犯し秩序を乱す犯罪者というレッテルを貼ったのです。米国とメキシコの国境に建設をする壁は、「法を守り秩序を回復するための壁」であると言いたいのです。

 もう1点、指摘します。「法を守り秩序を回復する候補」には重要な隠されたメッセージが存在しているのです。有権者がこのメッセージを耳にすると、「法を守らなかった候補」を連想する仕掛けになっています。その候補は自分のルールで物事を進めてしまう候補です。私的なメールアドレスを使って公務を行ったクリントン候補のことです。「法を守り秩序を回復する候補」は応用範囲が広いので、本選でトランプ候補の核となるメッセージとして用いられるでしょう。

「あなたの声になる」と米国第1主義

 指名受諾演説でトランプ候補は、「私はあなたの声になる」と強調し、有権者の声を代弁して戦い、米国を最優先させることを誓いました。では、「あなた」とは一体誰を指しているのでしょうか。

 全ての有権者であるかもしれませんが、党の結束を図りたいトランプ候補は、宗教保守派に焦点を当てています。さらに、本選で鍵を握る無党派層を狙って発信したメッセージとも解釈できます。ただトランプ候補の内心は、指名受諾演説の舞台に上げてくれた熱烈な支持者である白人労働者と退役軍人でしょう。「私はあなたの声になる」というメッセージは、特に彼らの心に突き刺さったことは確かです。

 次に、トランプ候補の米国第1主義です。08年米大統領選挙では共和党の指名を獲得したジョン・マケイン上院議員(アリゾナ州)は、「国が1番(カントリー・ファースト)」をスローガンにして戦いました。勿論、国とは米国を指しています。マケイン上院議員は米国民を最優先するという意味で、「国が1番」というメッセージを発したのです。トランプ候補のように、大国である米国がグローバルな利益よりも、自国のみのそれを最優先して徹底的に追求していくというメッセージではありませんでした。同候補の米国第1主義には、偏狭な自文化中心主義的な色合いが濃く出ており、仮に大統領に就任した場合、米国が大国の役割を果たすのか強い疑問を持たざるを得ません。

 指名受諾演説におけるトランプ候補の非言語メッセージも看過できません。演説を行っている間、同候補はほとんど怒った表情をして、社会の不公平さに対する怒りや不満を抱いている有権者と感情共有を行っていたのです。ダイナミックな動作をとりながら、間を十分とり、沈黙といったパラ言語(副次言語)を効果的に活用し、会場の代議員の反応を「傾聴」していた点にも特徴がありました。結局、同候補の非言語メッセージが、言語メッセージのパワーを高めていたと言えるのです。

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