高支持率の裏で行われる“超法規的殺人”
ドゥテルテ政権発足後、最も顕著に取り組んでいるのが、麻薬密売組織の撲滅だ。国家警察によると、政権発足直後の7月1日から8月2日までの1カ月間、違法薬物密売などの疑いで超法規的に殺害された容疑者は約400人に上る。1日に10人以上が殺害されている計算で、事態を重くみた国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチ(米ニューヨーク)は、ドゥテルテ政権に抗議するよう国連薬物犯罪事務所(UNODC)などに要請した。
このような批判にもかかわらず、8月1日に公表された世論調査でも、1年後の生活が「改善する」と答えた国民は49%に上り、84年の調査開始以来で最高を記録した。同じ質問に関する調査は開始以来、これまでに120回実施されたが、40%を超えたのは全体のおよそ1割に当たる16回だけだった。
ドゥテルテ政権が支持されているのは「半年以内に麻薬密売組織を撲滅させる」と選挙前に豪語し、その公約通り有言実行の姿勢を示せたことだ。これが「何かやってくれるかもしれない」という国民の期待感につながっているとみられる。フィリピン人のある男性ジャーナリストは「ドゥテルテ氏のやり方には賛同できない部分もあるが、彼の強い政治的意思は評価に値する。犯罪組織にとっては一定の脅威になっているのではないか。実際、多くの国民は彼を救世主だと考えている」と語る。
ドゥテルテ大統領は就任後に初めて行った施政方針演説で、違法薬物と汚職の撲滅に取り組む姿勢をあらためて強調した。フィリピン共産党勢力との和平実現を目指す考えも示したが、成長を続けるこの国にとって重要なのはやはり、経済政策だろう。
国民が世論調査で「新政権が取り組むべき課題」に挙げたのは、インフレ率の抑制、雇用創出、貧困対策だ。これら生活改善の実感につながる政策が実施できるか否かが、今後の政権運営の鍵を握ることになる。
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