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2016年8月12日

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けた違いの脚力と認知神経系の素早さ

YUTAKA/アフロスポーツ

 吉田がなぜ、こうした動きができるのか。大きく分けて二つ理由がある。

 一つは、類まれな脚力の強さだ。吉田は高速タックルなどで、相手の脚をとり、そこから倒すまでの時間が1.23秒程度。国際大会の優勝経験者でさえ2秒前後かかるが、吉田の速さはその6割程度と短い。これはタックルが相手の予想を上回るスピードで入り、受け入れの準備さえ十分に与えないからだ。これによって、体が崩されやすくなる。この予備動作なしの踏み出しのパワーの源は類まれな脚力。低い姿勢で相手の懐に入れるのも脚力が強いからで、その脚力を支えるのは強靭な背筋力などの体幹の強さにある。

 もう一つは、相手選手との駆け引きの中で発揮する認知神経系の素早さがある。吉田はよくフェイントを使う。高速タックルを警戒した相手の体勢を崩すのが狙いだ。相手の重心が少しでも後ろに行ったり、腰が高くなったりしたスキを突き、タックルをしかける。この絶妙なタイミングをとらえる術が認知神経系の素早さだ。

 「吉田がこうした相手の動きを遅らせることができるのは、力の使い方がうまいからだ。力の使い方というと、力を入れることと考えるが、そうではない。力を抜くということだ。相手の構えから一瞬、ストンと消えるフェイント。これは重力を生かす抜き。つまり体を重力に任せて、身をゆだねるということだ。この抜きが、吉田の忍者の動きを可能にしている。この抜きによって、体は大きな地面反力(地面からの反動)を受ける。これをうまく使うことで、予備動作なしの仕掛けができる。吉田の魅力は、筋力だけではなく、この力を使う頭の良さでもある」と小田教授は強調する。

研究する世界に、技の幅を広げる

 しかし、吉田の圧倒的な強さの源となる「高速タックル」は、世界の敵が研究をはじめ、霊長類最強の女も簡単には、タックルができず、ポイントを取りにくくなってきている。

 アテネ、北京では圧倒的なフォール勝ちが目立ったが、ロンドンではそれが少なくなった。吉田自身の「フォール勝ち(相手の背中をマットにつけさせるなど完全に抑え込むこと)より、結果にこだわる」という発言に凝縮される。

 吉田の利き腕は右。レスリングでは通常、利き腕と同じ側の脚を前に出すのがセオリーだが、吉田は左脚が前。この姿勢は高速タックルに有利に働くが、相手も脚の出し入れを入れ替えたり、タックルできないように間合いを取ったりするなど対応を考えるようになってきた。

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