科学で斬るスポーツ

2016年8月12日

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 昨年9月、米ラスベガスで開かれた世界選手権。決勝の相手は3年連続で戦うソフィア・マットソン(スウェーデン)。相手は高速タックルを警戒し、間合いをとる作戦にでてきた。吉田は盛んにフェイントをかけ、タックルのチャンスをうかがった。マットソンは前に出す右、左と交互に入れ替えたり、引いたりしていた。一瞬、マットソンの脚がそろい重心が前のめりになった。このチャンスを見逃さなかった。タックルし、相手の両脚をとらえ、倒しにかかった。しかし、マットソンは体をひねって防御。完全には決まらなかったが、ポイントを稼いだ。このポイントが生き、結果的に2対1で勝ち、世界選手権13連覇、五輪を含めて16連覇を達成した。

 リオでも高速タックルは強力な武器になることは間違いない。しかし、吉田は、それ以外にも相手に覆いかぶさる「がぶり」や、その位置から体を裏返す「返し技」、さらには寝技など技のレパートリーを増やし、幅を広げようとしている。相手を高速タックルで攻め込むと警戒させ、それ以外の技でスキをつこうという考え方だ。

亡き父に捧げる勝利に向け

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 33歳で迎えるリオ五輪では、力づくで倒すことはできないことを吉田自身が一番よく知っている。確実にポイントを積み重ね、リードしている場面では、残り時間なども考慮して無理に攻めないという戦略も身に着けている。年齢相応の円熟した戦い方だ。昨年暮れには、ぜんそくと診断され、年齢だけではなく、病とも向き合う。強靭さが強調されるが、実は小さいころから食が細いなど繊細な側面も持ち合わせている。

 4連覇は常人が簡単に期待するほど生易しいものではない。想像を絶する努力の上に成り立つものだ。昨年限りで長年勤めたALSOKは辞めた。それも、五輪にかける吉田の気持ちの表れだ。そして、なんとしても五輪4連覇を報告したい人がいる。亡き父、栄勝さんだ。2014年3月、東京で開催された女子国別対抗戦ワールドカップに、三重県の自宅から駆けつけようとした栄勝さんは、上京する車中で、くも膜下出血で倒れ、この世を去った。過去五輪3大会は、栄勝さんがそばにいた。今回はその姿は見られない。しかし、天国で見守る栄勝さんの応援の声を心で聞きながら、リオのマットに向かう。霊長類最強の女は、親思いのやさしい娘でもある。頑張りを祈りたい。

  
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