2024年11月22日(金)

BIG DEAL

2016年9月2日

 そんな中、経営側は創業家が統合後も創業家が拒否権を持つことと役員の派遣を求めていたことを暴露した。文化の議論とはかなり異なる実利の生々しい話が暴露され、「結局はそこか」と思った人も多いはずだ。現在、出光経営陣と創業家の関係は決定的に悪化してしまった。世紀の経営統合の成否のカギを握る創業家の次の一手が注目される。

 創業家問題で実現しなかった大型統合の例が他にもある。サントリーとキリンだ。飲料メーカーも日本市場の縮小に直面する中、経営の合理化とグローバル市場に打って出る体力が求められている。サントリー、キリンともに日本の飲料メーカーでは最大級であるが、グローバルで見るとまだまだ規模が足りない。

サントリー創業家の場合

 そのような中での両社統合の発想は、石油業界の統合と同様に非常に理に適ったものだ。問題は、サントリーの創業家が同社の株の約9割を保有していたということだ。そして当時のサントリー佐治社長は、統合後の創業家の持分を33.4%以上にすることにこだわったという。つまり、統合後もサントリー創業家が経営上の拒否権を持つことを要求したわけである。統合後の新会社は規模面で欧米の有力会社に伍してグローバルの中で相当のプレゼンスを持つことが期待された。その新会社において、筆頭株主として拒否権を持つサントリー創業家というものを、キリンつまり三菱は納得できなかった。結局、両社の統合は実現しなかった。

 この両社にしても、企業文化の違いはよく語られた。サントリーは「やってみなはれ」の言葉に代表されるように、まずは動いて実践することを是とする。一方のキリンは組織の三菱であり、石橋をたたいて渡るような慎重経営。統合話が破断した後に、サントリーがビーム社を1兆円超で買収したが、このような大型案件はもし両社が合併していたらキリンの反対にあって実現しなかったという人もいる。

 果たしてそうだろうか。あらゆるM&Aは「地の利・人の和・天の時」というように、様々な条件が合致したときに実現するものだし、そのタイミングを感じられる経営者は当然にキリンにもいるはずだ。「やってみなはれ」というような感覚的な言葉は、サントリーがよりリスク挑戦的でキリンがそうでないようなイメージを持たせるが、決してそんなことはない。

ミャンマービールを買収したキリン

 キリンは2015年8月にミャンマーのビール会社を買収した。スー・チー率いるNLDが選挙に勝ったのは同年の11月であるので、軍政下での大型買収を実行した訳である。政治的には不透明な時期ではあるが、庶民の購買力の増加が予測される中、地場の大企業に出資を決めたその姿勢は「やってみなはれ」の精神そのもののように見える。つまり相手に特徴的と言われる資質が、自社の中に見出せることは往々にしてあるのである。

 企業文化というのは経営統合をしない材料としては語られるけれど、実は本質ではないのである。むしろそれを阻むのは、特定の株主が支配権を持つことへの嫌悪と、その逆で支配権を失うことへの恐れという、非常に生々しい利己的欲求なのである。


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