さて私事になるが、私は8月25日に国際機関・日本アセアンセンターの招きにより、シンポジウムで講演をさせていただく機会をいただいた。私はアセアンの財閥企業の鳥瞰図をまとめた『ASEAN企業地図』(翔泳社)という本を出版しているが、その本がご縁になっての講演への引き合いであった。アセアンにゆかりが深く、アセアンにおけるM&Aの推進者を自認している私にとって、正に日本とアセアンの懸け橋になっている同センターからのお声掛けは大変光栄であった。
この場を借りて藤田事務総長と、事務局の中西様には心よりお礼を申し上げたい。さて講演のテーマは、「アセアンのタイクーン、彼らとのWin-Winの構築法」であった。莫大な富を持つタイクーンは、傘下に多くの企業集団を支配しているが、「彼らとWin-Winの関係を築くことで、日系企業のビジネスチャンスを広げましょう」という内容を話した。
タイクーン傘下の企業は規模が大きくなって上場することもあるし、むしろ彼らはそれを積極的に狙っている。IPO時の創業者利益は、莫大なものになるからだ。ただどんなに規模が大きくなろうとそして上場を果たそうと、企業ガバナンスの形態は、タイクーンとそのファミリーが支配し続けるファミリービジネスである。その行動原理は、ファミリー利益の最大化であり、正に利己的なものである。
タイクーンならどんな選択をするか?
ふと思う。彼らの支配する企業がグローバルでの再編に巻き込まれた場合に、どのような選択をするだろうかと。支配権は失うがグローバル企業をパートナーにするか、それとも支配権にこだわり続け、結果として激烈な競争環境に身を置くか。
タイクーンにとって大切なのは、ファミリーベースでの財の最大化とその継承だ。目の前に提示されたいずれの選択肢が、ファミリーにもたらされるキャッシュのインフローを大きくするかを常に考えるであろう。ファミリーに対するキャッシュインフロー、つまり配当が増加して安定するということは、他の株主に対する配当も同様になるということだ。いうまでもなく株主の取分は一番最後なので、その取分が増加・安定するということは、一般債権者や従業員など他のステークホルダーのキャッシュインフローも増加・安定していることに他ならない。
そう考えると、創業者が自らのキャッシュインフローの最大化を目指すという選択は、全体最適をもたらす可能性が高いのではないかと思う。その結果として「やってみなはれ」という精神で大胆な経営スタイルをとれるかもしれないし、安定した経営の中で労使の対立を先鋭化させることなく、大家族的な温かさの中で全社一丸となって進んでいけるかもしれないのである。
自らの選択が混乱ではなく全体最適を生む。それが創業家のお仕事というものであろうし、そのような選択をするための材料提供をするのが経営陣の義務であろう。
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