亀井君は、「これは民主党の問題だ。国民新党に聞かないでほしい」と言っています。いまの彼の立場からするとそれしか言えないのかもしれませんが、一人の政治家として、「自分ならこう考える」と遠回しにでも自分の意見を言ってほしいと思います。これは、亀井君にとっては酷なことかもしれませんが、大政治家になってほしいと思う私からすると、こう申したいのです。
2007年5月に発刊した『人を不幸にする会社・幸福にする会社』(伊藤雅俊・金児昭著、PHP研究所)のなかで、私は「納税は国家から見れば売り上げである。経営者はお客様に感謝するが、なぜ政治家は納税者に感謝しないのか」という意味のことを書きました。歴代の首相、大臣に納税についての基本思想をお聞きしたいというのが、私の本当の気持ちです。
私は、信越化学工業の経理・財務部門で、38年間、一貫して税務調査の担当でした(少し詳しくお知りになりたい方は下のコラムをご覧ください)。私は、法人税務調査を受けるプロですが、法人税以外の税金に詳しいわけではありません。
そのわずかな法人税務体験だけから考えるのですが、首相と民主党幹事長の「政治とカネ」の件に関しては、日本国じゅうの税務行政に携わっている方々(財務大臣を筆頭に政務三役、主税局長、国税庁長官、各国税局長、各税務署長、税務署の方々や都道府県、市町村で税務を担当されている方々)は、ご自分の業務に照らし、固唾を呑んで、首相の事件と幹事長の事件の落ち着き先を見守っておられると思います。
両事件が一件落着となり、納税義務について何ら言及されないとなれば、これから一般の市民・お店・会社などの確定申告・納税を受けつける、税務署などの現場の方々はどうすればよいのでしょうか。日本国憲法第30条「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う」と定められた、日本国民の「納税義務」意識を向上させることは、国家百年の大計である、と私には思えるのです。亀井君がもし財務大臣だったらこの問題をどう考えるのか、いつの日か聞いてみたいです。
私の38年間の税務調査担当経験よりいくつかのエピソード
・経理係長のとき(35歳くらい)
税務調査では、調査官用の部屋(会議室など)を用意します。ある朝出勤して、その部屋に行くと、国税局の課長さん以下6人の調査官がずらっと並んでいました。「現場を調査します。ここから電話で経理部長の了解をもらいます。金児さんは3分間、この部屋にいて、我々が現場に着いてから自分の席に戻ってください」と言われました。これは、調査官が着く前に、私が調査される部門の人間と接触することがないようにするための措置です。
6人の調査官は、2人ずつの3グループに分かれ、経理・財務部門、社長の部屋・秘書室、営業本部に飛んでいきました。私は3分数えて急いで自分の席に戻りましたが、財務部の金庫は既に開けられていました。
秘書室では社長の印や、料亭・バーの領収書が山ほど出てきて、調査官に記録されました。経理・財務がその存在を知らない領収書が出てきたとなると大問題ですから、急いで秘書室に行くと、秘書室長は「あれは社長が個人のお金で支払った領収書だから大丈夫」と平然としています。財務部の金庫から帳簿外の現金が出ることもなく、調査は無事終了しました。
・経理課長のとき(40歳くらい)
税務調査では口が堅いことが大切です。スキを見せると負けてしまいます。自分個人は悪事を働いていないのに、調査官から「問題ではないか」と問いただされると夜眠れなくなる日が続きました。私は気の弱い人間です。 ※次のページに続く