イラン核合意崩壊も
トランプ氏はアサド・シリア政権について「アサド(大統領)は大嫌いだが、彼はISの戦闘員を殺している」と評価し、現政権とまるで異なる考えをはっきりさせている。
さらに「ロシアとイランもIS戦闘員を殺害している。シリアは今やロシアであり、イランだ」と指摘、シリアの将来をロシアとイランに任せることを示唆。これもトランプ氏の厄介事に巻き込まれるのは真っ平、という考えを反映したものだ。
トランプ氏はまた、「ISを創りだしたのはオバマであり、クリントンだ」と一見めちゃくちゃな発言を繰り返してきたが、2011年にオバマ政権がイラクから米軍を完全撤退させたことが今日の混乱の大きな要因になっていることは事実であり、真実を突く発言だ。
これと同じようにトランプ氏はオバマ政権が続けてきたシリア反体制派への支援について、(今や過激派と一緒くたになって)誰が反体制派か分からない者に支援することはISを支援することだとも批判しており、反体制派への支援政策が大きく変わる可能性も出てこよう。
懸念されるのはトランプ氏がイランの核合意に強く反対していることだ。同氏はイスラエルのロビー団体での演説で「最優先すべきはイランとの破滅的な核合意を破棄することだ」と言明。再交渉し、イランへの制裁を強化するとまで踏み込み、イランの宿敵イスラエルを狂喜させた。
米欧など6カ国が長い交渉の末、やっとまとめ上げた核合意に注文を付けられれば、交渉に加わった英仏独は無論、イラン側が猛反発するのは必至であり、すぐさま緊張が高まるだろう。そうなれば、イスラエルによるイラン攻撃のリスクも再浮上してくることになる。トランプ氏の無謀な一面が現実的な危機に直結する恐れもあるということだ。
いずれにせよ、トランプ政権の「無関心と無謀さ」が同居する政策では、中東の混乱は鎮静化しまい。それどころか、ロシアやイラン、サウジアラビアなどの覇権争いが活発化し、今以上に混迷が広がるだろう。シリアの内戦は終息しそうもないし、IS掃討作戦も大きく変わるかもしれない。トランプ氏に助言するホワイトハウスの補佐官らの人選が極めて重要なものになる。
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