民主党が主張するように、コスト意識の低い兼業農家も支給された補助金を使って生産効率を上げてくれればよい。しかし、「(4ha以上の土地を耕すための)トラクターを1台購入するのに300万~1,000万円程度かかる」(農機メーカー関係者)といわれる農業の分野で、兼業農家に渡る少額な補助金がそのような効果を生むと期待するのは無理がある。生産コストが下がらなければ、農家は赤字から抜け出せず、政府はそれを補填するためにさらなる血税を注ぎ込むことになるだろう。
また、農地の問題もある。限られた農地を意欲ある農家のもとに集め、経営規模を拡大させることが生産効率向上を図る近道であることは間違いない。しかし、今回の政策のように、手を挙げたすべてのコメ農家に(少額であっても)必ず補助金が渡り、赤字分まで埋め合わせてくれる仕組では、コスト意識の低い兼業農家が、補助金欲しさに農地を手放さないでおこうと考えるのも自然の流れだ。
すでに、補助金目的の「農地の貸し剥がし」も起きている。今回の制度では、コメ以外にも、麦や大豆等が補助金の支給対象となるため、補助金を目的に、自分の農地を貸していた農家に対し返却を迫るのだ。岩手県北上市にある西部開発農産の照井耕一社長は、戸別所得補償制度の概要が公表されてから、立て続けに農地の貸借契約を打ち切られたと語る。「貸し剥がされた土地は全部で5~6町歩(1町歩は約1ha)。ほとんどの農家がエサ米(飼料米)をやると言っていました」。
ちなみに、飼料米は10a当り8万円の補助金が支給される。農家から土地を借りながら地道に規模を拡大し、地域を代表する大規模担い手集団にまで成長させた照井氏がこのような貸し剥がしに遭うのだから、民主党の政策は、農業を保護するどころか意欲のある農家の足を引っ張っているともいえる。
それでは、これまでの自民党の農業政策はどうだったのだろう? 高齢化による担い手の減少を危惧した自公政権は、2007年度の生産物から「品目横断的経営安定対策」を導入し、支援対象を認定農業者(4ha以上)と集落営農(20ha以上)の大規模な農家に限定することで、効率的な農業経営を行う担い手に集中的に支援する体制を一度は整えた。しかし、07年7月の参院選で、「高齢・零細農家の切り捨てだ」として戸別補償政策を掲げた民主党に自民党が大敗したことで、2007年12月、制度の名称を「水田・畑作経営所得安定対策」に変更するとともに、面積要件の緩和や、市町村が担い手を独自に認定できるようにする、などの見直しを行ったことで、再び補助金の支給対象を広げてしまった。
このように、自民党の農業政策も決して正しい方向に向かっていたわけではない。しかし、「零細農家の保護」を名目に、180万戸もの農家に薄く広く補助金を与えるやり方は、決して得策とは言えない。ここまで検討してきたように、その効果を考慮すると、民主党の「戸別所得補償制度」は単なる「ばら撒き政策」と捉えられても仕方がない。
※もっと詳しい内容が、WEDGE4月号に掲載されています。
WEDGE4月号特集:「補助金どっぷり 農業ぽっくり」
■「WEDGE Infinity」のメルマガを受け取る(=isMedia会員登録)
週に一度、「最新記事」や「編集部のおすすめ記事」等、旬な情報をお届けいたします