日本でも大きく報じられた韓国の大規模ろうそくデモを見れば分かるように、現在韓国国民は政権への不信と怒りに満ちている。もし弾劾に反対する裁判官がいて、結果的に弾劾案が棄却されるような事態が発生しようものなら、大統領を弾劾することが「善」であり、「民主主義の現れ」だと思っている興奮状態の群衆は、反対した裁判官を激しく攻撃するだろう。
実際、今回も国会で弾劾案可決の直前、誰かによってインターネット上に弾劾に消極的な議員、反対する議員の携帯電話の番号が記載されたリストが公開されたのだが、このリストに掲載されていた議員たちの携帯電話には怒れる群衆から抗議の電話やメッセージが殺到した。その激しいバッシングに耐えられず携帯番号を変更した議員もいるという。興奮状態に陥った群衆がどんな行動を起こすのか、最高裁判所の裁判官たちは、事前に目の当たりにしているのである。果たして彼らは自分の所信どおりに持論を展開することができるだろうか。
興奮状態冷めやらない韓国国民の注目を集める中で行われる、憲法裁判所の判決に公平性が担保されるのか、あるいは、「国民情緒」という名の超法規が影響する可能性も拭い去れない。弾劾審判の行方は、依然、五里霧中と言わざるを得ない。
では、最初のテーマに戻り、弾劾が認められればどうなるのか、あるいは棄却されればどうなるのかという角度からこの問題を考えてみよう。
弾劾されても困る次期大統領候補たち
もし弾劾が決定したらどうなるのか? 弾劾が決まったら朴大統領は大統領職を失い、60日以内に新しい大統領を選ぶための選挙が行われることになる。元々、2017年12月に予定されていた大統領選挙が6カ月程度前倒しになる計算だ。この結果は、野党有利と見る向きも多いが、現実的には、大統領の座を狙う一部の野党候補者たちにとって喜ぶような事態もない。なぜなら、韓国の公務員法には、補欠選挙に出馬する公務員は選挙30日前に公務員職を退いていなければならないと定められているからである。
つまり、現職の公務員である自治体の市長、道知事および官僚たちは、憲法裁判所の弾劾判決が出てから30日以内に、現在の役職を辞任しなければならない。
これは、現在の大統領選挙に出馬が噂されている朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長、李在明(イ・ジェミョン)城南市長、安熙正(アン・ヒジョン)忠南知事、そして最近保守からの支持率が上昇している黄教安(ファン・ギョアン)総理には痛い条項である。大統領選までの準備期間が圧倒的に短縮されるからである。現時点の世論調査でトップを走っている文在寅(ムン・ジェイン)元野党代表にとっては歓迎すべき事態かもしれないが、これから約一年かけて国民にアピールし、戦おうとしていた他の候補者にとっては大きな痛手だ。新しい旋風を起こす前に選挙期間が過ぎ去ってしまうだろう。彼らにできる精一杯の対策としては、一日も早く現職を退いて選挙戦に集中することかもしれないが、世論を十分に見極める前に辞職するのはあまり分のよくない賭けである。万が一弾劾案が棄却された際には、まだ任期が長く残っている段階で辞職した無責任な政治家というマイナスイメージを背負ったただの失業者になりかねないからである。