韓国の政情は依然として不透明なままである。朴槿恵大統領に対する弾劾審判の手続きが憲法裁判所で始まったものの、野党側が期待するようなスピード審理で罷免が決まるとは考えづらい。憲法裁の審理期間は最長180日だが、韓国メディアにコメントを求められる元判事らは一様に「180日は努力規定」と付け加えている。半年を超す長期戦になると決まったわけではないものの、現時点で見通しを立てるのは無理ということだろう。
今回の事態が10月下旬に急展開した背景については、11月上旬に執筆した前回の本コラムで途中経過といえる判断をまとめている(「朴槿恵大統領のスキャンダル、韓国世論がここまで燃え上がった理由」)。その後、さらに現地取材や専門家たちとの議論を重ねた結果を毎日新聞紙上でも報告した(「朴大統領弾劾訴追の裏側 儒教的理想を直撃」、紙面では12月20日付朝刊に掲載)。そうした点に関心をお持ちの方は、そちらを参照していただければと思う。
さて、弾劾審理の展開とは関係なく、政界の関心は既に大統領選に移っている。そして、激動の舞台に突然躍り出てきたのが、日本でも「韓国のトランプ」などと紹介されるようになったソウルの南隣に位置する城南市の李在明(イ・ジェミョン)市長(第1野党・共に民主党)である。
独自の福祉施策で政府と対立し全国区に
現在の世論調査で支持率トップを争うのが、2016年末で国連事務総長の任期が終わる潘基文(バン・ギムン)氏と12年大統領選で朴大統領に惜敗した「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)氏の2人だ。李市長は、その2人を激しく追い上げている。
李市長は15年に独自の福祉施策を打ち出して中央政府と激しく対立したことで全国ニュースに登場するようになった人物だ。それまでもネット上には熱狂的なファンを持っていたようだが、政界ではまったく注目されていなかった。就職難に苦しんでいる人が多い若年層に対する支援策として24歳の市民を対象に年間100万ウォン(現在のレートで約9万8000円)の「青年手当」を翌年から支給するという施策で、結局、政府の反対を押し切って強行した。