外交的波紋は気にせず、内向き発言に終始
韓国の外交安保政策で喫緊の課題となっているのは、在韓米軍への終末高高度防衛(THAAD)ミサイル配備である。米軍は何年も前から配備したがっていたが、中国の意向を気にして韓国が嫌がっていたものだ。北朝鮮が今年初めに行った核実験と長距離弾道ミサイル発射を受けて、朴槿恵政権が受け入れを決断した。野党は当初から強く反対しており、現在は、配備へ向けた手続きを止めて「次期政権に任せろ」と主張するようになった。
この問題に対する李市長の態度は揺れている。数カ月前には配備予定地へ出向いて反対集会に参加していたのだが、12月20日の韓国紙・中央日報のインタビューでは「米国と合意されたことなので一方的な廃棄は不可能であり、無責任だ」と語ったのだ。ただ、この発言が批判されるとすぐにフェイスブックで「THAAD(配備)は撤回されねばならず、次期政権に持ち越した後で再検討することが当然だ。しかし現政権が(野党の要求を)拒否したことで実際に設置されてしまったら、韓米関係の特性からも一方的な(配備受け入れの合意)廃棄は難しい。(中略)中央日報の記事は、THAAD配備が完了した後の現実的対策に関する話だ」と釈明した。
日本と締結したばかりの軍事情報包括保護協定(GSOMIA)や昨年末の慰安婦合意を否定するような発言もしているが、少なくとも現時点では、あまり詰めて考えているような印象は受けない。野党支持の政治学者の中には、李市長を含む野党有力者たちによる外交安保関係の発言について「とりあえず国内での人気取りに少しでもつながりそうな話をしているだけ。外国から気にしてもらうほどの重みはない」と言ってのける人もいる。
実は、私も「本当にそうだろうな」とは思う。実現可能性や外交的波紋など念頭になく、威勢のいい朴槿恵批判に使えそうな言葉を繰り出しているだけという側面が強いのだろう。前述の「反日」と同じ軽いノリだ。しかもトランプ氏を考えれば、こうした現象は韓国だけではないのかもしれない。それでも「だから日本や米国は気にしちゃいけない」と言われても困るのだが、今後も同様の状況は続くだろう。朴大統領を巡る政局の混迷がいつになったら終わるのか分からないこともあり、韓国外交は視界ゼロのまま「トランプ時代」の新年を迎えることになった。そんなことでいいのだろうかと心配になるが、それが現実である。
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