李市長は、この実績を行政能力の高さを示すものだとアピールしている。政府の反対を押し切って「青年手当」を導入したことについても、「無駄を削って予算を作ったのだから問題ない」と主張するのである。
対日では信じがたい発言も
ここまで書いてきた内容だと素晴らしい政治家のように見えるのだが、一方で、過激な発言を繰り返すために敵も多い。財閥や保守政治家ら既得権益を持つ勢力を敵視し、SNSを活用して攻撃するスタイルが「トランプ」と呼ばれる理由である。
毎日新聞によると、朴槿恵大統領の弾劾訴追案が国会で可決された翌日(12月10日)、ソウル市内で講演した李市長は「(朴氏が退陣したら)すぐ逮捕して手錠をかけて、人権上の問題があるから手錠はタオルで巻いて連れて行けばいい。そうすれば国民はこの国に公正さがあるとわかる」と話しながら両手を前に付き出してみせたという。
12月6日にはフェイスブックに「今回の事態の頭目は朴槿恵、胴体はセヌリ党だが、根はまさに経済既得権すなわち財閥だ。(中略)国民の審判によって頭目と胴体、根にはびこる悪性腫瘍をえぐり取らなければならない。親日独裁腐敗勢力の土台である財閥体制に対する根本的な大手術があってこそ、特権をふりかざす反則がまかり通る世の中を正し、公正な社会に進むことができる」と主張した。
「親日独裁腐敗勢力」というのは、おそらく「保守派=日本の植民地支配への協力者」と「財閥=独裁時代の政経癒着で成長した特権層」を指すのだろう。李市長は講演の場でNHK記者から質問を受けた際には「日本は軍事的には敵性国家」などという信じがたい発言をしたという。そのためか、日本では「反日でアピールしようとしている」などという解釈もあるようだ。
しかし、反日的な言動があったとしても、それを「アピール材料に使っている」というのは考えづらい。反日で支持を集められるような時代はとっくに終わっているからだ。私には、昔ながらの論理を極めて軽いノリで使っているだけにしか見えない。こうした発言と同時に「日本との協力は極めて重要だ」という主張が当然のこととして行われ、そこに誰も矛盾など感じない。こうした思考停止が韓国社会でまかり通っていることこそが、問題の根深さを示しているのだろう。(この点は本題からずれるので、これ以上は立ち入らない。詳しくは、拙著『「脱日」する韓国』、『韓国「反日」の真相』を参照されたい)