次期大統領選に関する調査は、候補になりそうな人物の名前を列挙した上で誰を支持するか聞く形式だ。韓国ギャラップ社は15年4月に李市長の名前を候補に加えたが、その時点での支持率は1%。16年夏以降は徐々に支持率を上げたが、それでも10月下旬に朴大統領批判が燃え上がるまでは5%程度だった。それが、同月29日に始まった週末の集会でいち早く朴大統領の下野を要求するなど過激な発言を繰り返すことで一気に急浮上した。同社が12月9日に発表した調査での支持率は、文在寅、潘基文両氏の20%に迫る18%だった。
ただし、ここで一つお断りしておきたい。韓国大統領選では1年前の世論調査での優劣はまったく当てにならない。ジンクスとして「1年前の世論調査でトップだった人で当選した人はいない」と言われるほどである。ただし、1年前の世論調査で大統領候補の選択肢に入っていなかったのに当選した人もいないとされる。
共に民主党では現在、文氏が主流派を完全に掌握している。李市長がそれを覆すのは難しいという見方が政界では強いが、米大統領選の例もある。現時点では予断を持たない方がいいだろう。
珍しくない「ダークホースの登場」
韓国政界を見ていると、まったく無名だった人物がいきなりスター扱いされるようになって面食らうことがある。現在は第2野党「国民の党」の有力大統領候補となっている安哲秀(アン・チョルス)氏もそうだった。安氏は、成功したベンチャー企業家としては有名だったが、政治とは無縁だった。それが、2011年夏にいきなり翌年の大統領選を狙う人物として取り沙汰されるようになり、9月には朴槿恵氏を上回る支持率をたたき出したのである。
安氏の場合は、朴槿恵氏に対抗できる候補を探していた穏健保守の長老グループが政界入りを画策した。一方で李市長は自らが野心家で大統領への意欲を隠さずにきたのが、朴大統領のスキャンダルをきっかけに大ブレークした。そうした経緯の違いはあるが、安氏は既存政治への不信感、李市長は政治・経済両面での既得権益への激しい怒りに乗って急浮上している。この点は、似通っていると言えるだろう。
2012年大統領選では安氏は最終的に出馬を断念したものの、既存政治への不信は最後まで重要なイシューとなった。今回はさらに、既得権層を敵視するスタイルが世界的に広まっている中での李市長の台頭である。李市長が最後まで選挙戦に残るかどうかはともかく、彼が体現する既得権益への怒りは大統領選でも大きなテーマとなる可能性がある。