2024年4月25日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年2月10日

 メイが単一市場からの離脱を表明するか否かがメディアの関心を集め、事実、演説でメイが単一市場からの離脱をこれ以上ない表現で明確にしたことが注目されたことは一種の謎です。メイが言ったように、EUを離脱する以上、単一市場のメンバーシップを失うのは当然のことです。
メイに関する限り、就任以来言っていることは次の諸点であり、今回の演説でも基本的には同じことを言ったのだと思います。

(1)EUを離脱する。

(2)離脱後、EUとノルウェー型の関係を持つことはない。(単一市場のメンバーシップを維持する一つの方策ではあるが、人の移動の自由を容認する必要があることの他、単一市場の規則形成に発言権を持たず、「主権」の回復という観点からそもそも選択肢たり得ない)

(3)EUとの間に「果敢で野心的な自由貿易協定」を結び、単一市場へのアクセスを確保する。

(4)単一市場へのアクセスを求めるからといって移民のコントロールを犠牲にすることはしない。

 メイの発言には幾分かの曖昧さが残り、踏み込もうとするとポンドが売られるといった状況があってできないでいました。シティーや自動車産業には特別な配慮がなされるであろうとの情報や、ビジネスを崖っぷちに立たせることはしないというメイの保証があって、単一市場の離脱の如何に不透明さが残っていたということであるようです。いずれにせよ、今回の演説で単一市場からの離脱が明確になりました。移民のコントロールを優先するこの路線は「ハード」なBrexitと呼ばれています。

「ハード」なBrexit

 上記エコノミスト記事は、「ハード」なBrexitに執拗に懸念を表明しています。いずれの懸念も正当なものです。メイは離脱に係る合意とEUとの将来の関係を律する自由貿易協定の双方の交渉期間を定められた2年に限定するようなことを言っていますが、どうして2年である必要があるかは必ずしも明確ではありません。27ヶ国に交渉を遷延させない意図でしょうか。しかし、批准プロセスも考慮に入れれば尚更のこと、極めて困難なスケジュールに思えます。

 メイの演説で最も強い印象を与える部分であり、これまでの発言になかったことは、27ヶ国を脅かしたくだりです。メイは、懲罰的な取り引きは拒否するとして「悪い取り引きなら取り引きがない方がましだ」と述べた上で、「(取り引きがなくとも)欧州と貿易は出来る。世界中で貿易協定を作ることは自由だ。競争力のある税の水準を設定し、世界で最良の会社と最大の投資家を誘致する政策を採用することも自由だ。もし、単一市場へのアクセスから排除されるなら、英国の経済モデルの基本を変えることも自由だ」と述べました。2年で満足すべき結果が得られなければ、それはそれで構わない。英国は独自の途を行く。それは「欧州のシンガポール」だという風に読めます。よくここまで言い切ったと思いますが、巧くそのように運べるかは分かりません。

  
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