■今回の一冊■
The Big Short 筆者Michael Lewis, 出版社Norton, $27.95
自らの債券トレーダーとしての経験をもとに、ウォール街のあきれた実態を「ライアーズ・ポーカー」で活写しベストセラー作家になったマイケル・ルイスが、20年ぶりにウォール街にメスを入れる書を送り出した。世界の金融システムが崩壊寸前にまで追い込まれた2008年当時、住宅バブル崩壊を予見し、サブプライムローン(信用力の低い低所得者向け住宅ローン)関連の債券を空売りし巨万の富を築いた男たちを描くノンフィクションだ。タイトルはまさに、直訳すると「大いなる空売り」だ。
アメリカの大手金融機関が、住宅バブルの崩壊が始まった直後に、含み損を抱えたサブプライム関連債券を、日本の金融機関に転売したてんまつなども活写しており、日本の読者にとっても読みどころ満載だ。
ニューヨーク・タイムズ紙の週間ベストセラーリストの単行本ノンフィクション部門で、3月下旬に1位で初登場。本書にとってはタイミングがいいことに、アメリカのSEC(証券取引委員会)が4月中旬に、米大手投資銀行ゴールドマン・サックスを証券法違反の疑いで提訴した。SECが問題視したのが、サブライムローン関連債券を投資家に販売する際、裏でヘッジファンドが空売りしている情報を隠していた点だったから、本書への関心が一段と高まった。
最新のベストセラーリスト(ウエブ版5月13日付)では惜しくも1位は逃したものの、8週連続でランクインし堂々の2位につけている。
みなが住宅バブルに浮かれていた中で、逆張りの投資をした男たちだけに、マイケル・ルイスが描き出す登場人物は個性が強い。幼いころに病気で片眼を失い、人付き合いが嫌いで、アスペルガー症候群のおかげで、鋭い投資判断ができるヘッジファンドのマネージャー。サブプライムローン関連債券の空売りを、ヘッジファンドに推奨して回ったドイツ銀行のトレーダーや、全くの投資の素人からヘッジファンドを立ち上げた若者たちなど、ユニークな人物たちのサクセスストーリーを本書はとりあげる。
小馬鹿にされた日本人経営者
オッペンハイマーという独立系証券会社で株式アナリストとして働き、のちにヘッジファンドに転職しサブプライムローン関連債券を空売りしてもうけるアイスマンという男も強烈だ。住宅ローン会社の社長がアナリスト向けの説明会でスピーチをしている途中で、突然、「その数字はウソだ」と叫ぶなど奇行で有名な人物だ。日本の不動産会社の社長との面談について描く次の挿話も興味深い。