2024年4月20日(土)

韓国の「読み方」

2017年3月6日

正男氏と正恩氏、母の出自は五十歩百歩

 読売新聞によると、テ・ヨンホ元公使はYTNとのインタビューで、金正恩氏にとって「北朝鮮住民に金正日総書記の後継者だと認識させることが困難な要因の一つに、正男氏の存在があった」と話したという。建国の父である金日成主席の血を引く「白頭山の血統」という問題を持ち出し、「白頭山の血統のアイデンティティーと大義名分(のなさ)が正恩政権の一番のアキレスけん」と指摘したそうだ。

 この主張の肝は、正恩氏の母である高英姫夫人が日本生まれであることにある。高夫人は1950年代末に始まった在日朝鮮人帰国運動で日本から北朝鮮に渡った。そして、元在日朝鮮人は北朝鮮で差別される対象だから、正恩氏は正男氏に対してコンプレックスを持っているという説明になる。

 確かに最高指導者の母が日本生まれというのは、北朝鮮としては明かしたくないことだろう。ただし、この説明で見落とされているのは、正男氏の母である成惠琳(ソン・ヘリム)氏の出自も北朝鮮の感覚では「悪い」ということである。成氏は朝鮮戦争中、共産主義者だった母に連れられて姉の惠琅氏とともに韓国から北朝鮮へ渡った女性だ。

 北朝鮮では、日本の植民地だった時代や朝鮮戦争時の父母や祖父母らの立場で決まる「出身成分」が住民の分類に使われる。その内容は、(1)労働者や貧農、革命遺族などの核心階層、(2)手工業者、小工場主、日本からの帰還者などの動揺階層、(3)富農や地主、日本の植民地支配から解放された後に南から北へ来た「越北者」、キリスト教信者などの敵対階層——の3階層51分類とされる。これに従うなら、正恩氏の母は真ん中の「動揺階層」、正男氏の母は一番下の「敵対階層」である。しかも正男氏の母の家系は、地主でもあった。

 90年代に西側へ亡命した成惠琅氏の自叙伝『北朝鮮はるかなり』(文春文庫)には、正男氏の母である自らの妹について語った次のような一節がある。

 「惠琳は数多くの映画の主役をつとめた中堅の女優であったが、成分がよくないために俳優の等級もあがらず、党員にもなれなかった」

 それでも金正日氏に見初められれば、出身成分など関係なくなるのである。正男、正恩両氏の母の出自の違いなど五十歩百歩でしかない。


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